エンタメ業界の闇を暴いた映画、最高傑作は? 衝撃の問題作(5)架空の戦争を演出…今こそ観るべき早すぎた傑作
昨今テレビやSNSで取り沙汰されている政治家の汚職や金も問題、さらにテレビ局やタレントによる信じ難いニュースを目にすると、世の中への不信感は募る一方だ。そして報道されるものを頼りに生活をしてきた私たちは、何を信じていいのか分からず戸惑いを隠せない。そこで今回は、マスコミの闇を描いた海外映画を5本を紹介する。第5回。(文・阿部早苗)
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大統領スキャンダル隠蔽のため架空の戦争を演出
『Wag the Dog/ウワサの真相』(1997)
監督:バリー・レビンソン
キャスト:ロバート・デニーロ、ダスティン・ホフマン、アン・ヘッチ
【作品内容】
大統領選直前、現職大統領のスキャンダルが発覚。側近ウィンフレッドはスピン・ドクターのコンラッドと共に、アルバニアとの戦争を偽装し世論を操作。ハリウッドのプロデューサーも加わり、架空のテロ事件を演出する…。
【注目ポイント】
名優ダスティン・ホフマンとロバート・デ・ニーロが共演した本作は、政府がスキャンダルを隠蔽するために架空の戦争を演出し、メディアを操作する過程を描いた政治風刺作品。
物語は、大統領の性的スキャンダルが発覚するところから始まる。選挙を目前に控えたこの危機を乗り切るため、政府は敏腕スピン・ドクターのコンラッド(ロバート・デ・ニーロ)を雇い、世間の関心を逸らす策を講じる。
彼が考えたのは「戦争を作る」ことだった。大物プロデューサーのスタンリー(ダスティン・ホフマン)を招き、映画のように架空の戦争を演出。作戦の要となるのが、映像を駆使したプロパガンダだ。
スタジオで撮影した映像を「戦地の実録映像」として放送し、アメリカ国民に恐怖と共感を植え付ける。例えば、アルバニアの村で少女が爆撃から逃れる映像は、グリーンスクリーンと特殊効果で作られたものだ。しかし、視聴者はそれが「本物のニュース映像」だと信じ込んでしまう。
架空の戦争は最初こそ政府の仕掛けだが、一度メディアに流れれば、やがて「政府の発表を信じるしかない」状況が生まれ、疑問を持つ者は少なくなる。そして、情報の洪水の中で、元々のスキャンダルはかき消されてしまう。映画制作の手法をそのままプロパガンダに応用する様子は衝撃的だ。
ロバート・デ・ニーロの冷徹な戦略家ぶりも圧巻だが、彼が淡々と「戦争をでっちあげる」姿は、不気味さとブラックユーモアが同居し、観る者に複雑な感情を抱かせる。
本作が公開されてから四半世紀が経ったが、メディア操作と情報戦の技術はSNSが登場したことでより巧妙になっている。フェイクニュースや情報操作が社会を揺るがす今こそ「作られた真実」の恐ろしさを再認識していただきたい。
(文・阿部早苗)
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