史上最も面白いミュージシャンの生涯を描いた映画は?(4)エリート層から「低俗」批判も…カリスマの数奇な人生

text by 高梨猛

ノーベル文学賞を受賞した伝説のアーティストであるボブ・ディランの人生の一時期を描いた映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が高い評価を得ている。そこで今回は、過去に製作されたミュージシャンの伝記映画の中でも、とりわけ傑作と名高い作品を5本セレクト。魅力を余すところなく紹介する。第4回。(文・高梨猛)

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『エルヴィス』(2022)

エルヴィス・プレスリー
エルヴィス・プレスリー【Getty Images】

監督:バズ・ラーマン
キャスト:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング

【作品内容】

 カントリー歌手のツアーを手掛けていたパーカー大佐(トム・ハンクス)は、新人歌手エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)と出会い、マネージャーに就任する。黒人が多く住むエリアで育ったことで身についた音楽性と表現力でエルヴィスは熱狂的な人気を集めるが、エリート層からは低俗と批判も浴びてしまう。私生活ではプリシラ(オリヴィア・デヨング)と結婚、やがて“キング・オブ・ロックンロール”と呼ばれる存在に登りつめていくが、パーカー大佐の契約に縛られ、心身ともに疲弊していく。

【注目ポイント】

 これまで何度も映像化されてきたエルヴィス・プレスリーの生涯を、ゴージャスな意匠と映像美で名を馳せるバズ・ラーマン監督が絢爛豪華に仕上げた決定版。

 エルヴィス・プレスリーが、いかに革命的な存在だったかを、旧来の良識や差別が根深く残る時代背景と照らし合わせながら描写。エルヴィスの官能的なステージアクションを目撃した女性の観客たちが、戸惑いつつも嬌声をあげてしまうシーンはまさに象徴的だ。

 そして悪徳マネージャーの代名詞ともいえるパーカー大佐との確執、複雑な家族愛、そして歌への飽くなき情熱を圧倒的なライブシーンと共に描いていく。
 
 エルヴィス役には新鋭オースティン・バトラーを抜擢。見事な歌とダンス、そして独特の憂いまでも醸し出し、ラスベガスのショーを再現したパートでは本物と見紛うほどの熱気のあるステージを披露する。パーカー大佐を演じたトム・ハンクスもさすがの味わいで嫌味な小悪党を好演。そのアンサンブルも見どころだ。

 劇伴には最新のアーティストたちがエルヴィスの楽曲をサンプリングやカバーした楽曲が常に鳴っており、流麗なカメラワークとスピーディなカット割りも含めて、ほぼミュージカルといってもいいほど音楽性が高い仕上がりになっている。

(文・高梨猛)

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【了】

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