リアルで怖い…実在の犯罪者を演じて大化けした役者は?(5)戦後最悪の悪夢…なぜ青年は狂気に取り憑かれたか?

text by 阿部早苗

ニュースで報道されるたびに日本社会を震撼させる殺人事件。その犯人たちは、新聞やネットを騒がせるのみならず、しばしば映画やドラマの題材になってきた。そこで今回は、実在の殺人犯を演じた役者を5人セレクト。視聴者の背筋を凍らせた、迫真の芝居の魅力を解説する。第5回。(文・阿部早苗)

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複雑な内面の揺れを繊細な演技で表現

磯村勇斗『月』(石井裕也監督、2023)

磯村勇斗
磯村勇斗【Getty Images】

 作家・辺見庸の同名小説を基にした映画『月』がモチーフにしているのは、「津久井やまゆり園」の入居者19名が殺害され、職員含む26名が重軽傷を負い社会に衝撃を与えた「相模原障害者施設殺傷事件」だ。映画では、事件の加害者役を俳優の磯村勇斗が演じた。

 映画は、元有名作家の洋子(宮沢りえ)が、深い森の奥にある重度障害者施設で働き始めるところからはじまる。洋子は施設で、絵が好きな職員の青年・さとくん(磯村勇斗)と出会う。しかし、施設内では入所者への虐待が日常化しており、その状況に強い憤りを感じるさとくんだったが、職員による心無い一言によって精神的に不安定になるのだ。この“心無い一言”が彼を狂気に導く引き金になったのは間違いないだろう。

 磯村が演じたさとくんは、最初は入居者に対しても優しく、施設内での暴力や不正に対して強い反発心を抱いていた。しかし、自分を否定されたことによって、これまでの優しさや正義感が一気に崩れ落ちる。また、凶行に及ぶ犯人の複雑な内面を繊細に表現した磯村の演技に触れるたびに、胸がギュッと締め付けられること請け合いだ。

(文・阿部早苗)

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【了】

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