最も謎めいた日本のファンタジー恋愛映画は?(3)白塗りメイクの美少女の正体は…80年代を代表する邦画の傑作
text by シモ
映画『2001年宇宙の旅』(1968)以降、大作志向が顕著になったSF映画。しかし、中には、心がホッとするようなファンタジックなSF映画も作られ続けている。そこで今回は、日本で作られた「ゆるふわSF映画」をセレクト。甘く切ない男女の恋愛を描いた作品や、ゆったりと流れる古都の悠久の時間を刻み込んだ作品など、5本を紹介する。第3回。(文・シモ)
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未来へと希望を託す「別れの曲」
『さびしんぼう』(1985)
【作品内容】
住職の一人息子・高校2年生の井上ヒロキ(尾美としのり)は、放課後の女子校でショパンの「別れの曲」を弾く橘百合子(富田靖子)に「さびしんぼう」と名づけ、思いを寄せていた。
そんなある日、ヒロキの前に、ピエロの白塗りメイクと帽子を被った不思議な少女(富田靖子)が出現。自ら「さびしんぼう」と名乗りはじめる。
【注目ポイント】
広島・尾道を舞台にした、『転校生』(1982)『時をかける少女』(1983)に続く”尾道三部作”の完結編。監督は名匠大林宣彦が務める。
本作の最大の魅力は、「さびしんぼう」役の富田靖子だろう。はじめ、橘百合子としてヒロキの前に現れる「さびしんぼう」は、その後姿を変えて度々現れる。この神出鬼没の存在は、ヒロキの憧憬であるとともに、ヒロキ自身の成長や、過ぎ去っていく青春を象徴した多義的な存在であるといえるだろう。
そして、本作を語る上で外せないのがショパンの「別れの曲」だ。この曲は、主人公の主人公のヒロキと百合子(「さびしんぼう」)そして母のタツ子、タツ子の分身である「さみしんぼう」の4者に共通する楽曲だ。
ヒロキがつたない手つきで演奏する「別れの曲」にはほのかな希望を感じられ、百合子が演奏する「別れの曲」は寂しく響く。それは、ほろ苦い過去の経験を乗り越えて、現在、そして、未来へと希望を託す調べなのだ。
(文・シモ)
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