いちばん怖いのは人間…史上最恐の“ヒトコワ”系日本映画(4)笑う瞬間がゾッとする…世紀末に放たれた怪物は?

text by ニャンコ

チャッキーにジグソウ、そして貞子ー。ホラー映画はこれまで世にも恐ろしい「スター」たちを多数輩出してきた。しかし恐いのは妖怪や幽霊だけではない。隣に住むあの人も、突然「モンスター」に変貌するかもしれないのだ。そこで今回は身近に潜む人間の恐怖を描いた「ヒトコワ映画」5本をセレクト。怖いもの見たさを掻き立てる怪作を紹介する。第4回。(文・ニャンコ)

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世紀末に放たれた「ヒトコワ映画」の金字塔

『黒い家』(1999)

大竹しのぶ
大竹しのぶ【Getty Images】

監督:森田芳光
脚本:大森寿美男
キャスト:内野聖陽、大竹しのぶ、西村雅彦、田中美里、町田康、桂憲一、小林薫、伊藤克信

【注目ポイント】

『家族ゲーム』(1983)の森田芳光監督が手がけた本作は、貴志祐介の同名小説を映画化した異色のサイコホラーである。保険会社の調査員・若槻(内野聖陽)は、保険金詐欺の疑いがある顧客・菰田夫妻と関わりを持つ中で、次第に常識の通じない恐怖の渦へと巻き込まれていく。公開時のキャッチコピーはずばり「この人間には心がない」。

 本作を史上屈指の「ヒトコワ」映画の傑作たらしめているもの、それは大竹しのぶが演じる妻・菰田幸子の存在に他ならない。幸子は保険金目的で人を殺すことを厭わない正真正銘のサイコパス。本作が公開された1999年は世紀末であり、当時の観客の脳裏には、地下鉄サリン事件(1995)や神戸連続児童殺傷事件(1997)など、人間の狂気に根ざした社会的な事件の記憶が生々しく残っていた。

 幸子は一見、地味で大人しい主婦に見えるが、微笑みに感情が感じられず、巨大な空洞に対峙した時のようなうすら寒さがある。幸子が目を見開いて笑う瞬間、背筋がゾッとするのだ。

 怒鳴り声や暴力ではなく、幸子の静かな語り口と不自然な距離感によって、じわじわと追い詰められていく若槻の姿に観客が心情を重ねるような作りになっており、じっと観ていると吐き気がしてくる。

 本作の恐怖は、日常の中に潜む狂気にある。知らず知らずのうちに、自分の隣にもこういう人間がいるのではないかと思わせられるのだ。そうした恐怖を描く本作が、終末的なムードに包まれた1999年当時の観客に与えたインパクトは計り知れない。 

 音や演出に頼らず、表情と空気で恐怖をつくり上げる本作は、“人間が1番怖い”と痛感させられるジャパニーズホラーの金字塔である。もしかしたら観賞後、周囲の人々の笑顔が信用できなくなるかもしれない…。

(文・ニャンコ)

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【了】

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