ラストが物議を醸した日本映画は? モヤモヤした結末(4)穏やかな雰囲気が一変…突如B級ホラー化する作品は?

text by 編集部

「えっ、そんな終わり方!?」——観終わった後に語らずにはいられない、衝撃やモヤモヤが残るラスト。今回は邦画の中でも、ラストシーンが賛否を呼び“物議を醸した”作品を5本厳選。驚きの展開や深読み必至の余韻まで、作品の魅力とそのラストの意味を紐解く。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。第4回。(文・編集部)

『異人たちとの夏』(1988)

名取裕子
名取裕子【Getty Images】

監督:大林宣彦
脚本:市川森一
原作:山田太一『異人たちとの夏』
出演:風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子

【作品内容】

 シナリオライターの原田(風間杜夫)は、妻子と別れ一人暮らしをしていた。ある日、幼い頃に交通事故で亡くした両親と再会する。2人のもとへ通い始めた原田は不思議な女性・桂(名取裕子)とも出会い愛し合うようになるが、原田の身体は次第に衰弱していく。

【注目ポイント】

 山田太一の同名小説を原作に、大林宣彦監督が手がけた1988年の映画『異人たちとの夏』は、幻想と現実が交錯する“ファンタジーホラー”の名作として知られている。主演は風間杜夫。亡き両親を片岡鶴太郎と秋吉久美子、そして原田が恋に落ちる謎めいた女性・桂を名取裕子が演じている。

 物語の主人公は、脚本家の原田。ある夏の日、彼は偶然、交通事故で亡くなったはずの両親と再会する。不思議なことに、両親は生前と変わらぬ姿で現れ、懐かしい日々を再現するように彼と穏やかな時間を過ごしていく。原田はその幸福な夢のような世界に安らぎを見出しながらも、次第に心身ともに衰弱していく。

 そんな原田を現実に引き戻す存在が、同じマンションに住む女性・桂。彼女との関係が進む一方で、両親との交流は次第に“現実”との乖離を深め、物語は終盤、幻想から恐怖へと大きく転調していく。

 クライマックスでは、桂の正体が明かされるとともに、原田の「死に近づく」状態が明確に浮き彫りとなる。宙を浮かぶ幽霊、風間杜夫の特殊メイクによる病的な表情など、突如としてB級ホラーさながらの演出に変貌。この急激なテイストの転換は、ノスタルジックで詩的だった前半とのギャップから、公開当時も大きな賛否を巻き起こした。

 それでも、大林宣彦監督ならではの映像美、カメラワーク、そして「幻想」と「現実」の交差する語り口は唯一無二。死者との再会に込められた哀しみと救済、そして人間の根源的な孤独と向き合うストーリーは、多くの観客の心に静かに残り続けている。

 2023年にはリメイク版『異人たち』が公開されたことでも、本作は改めて注目を集めた。ラストの余韻と演出の違いを比較しながら、ぜひ両作品を味わっていただきたい。オリジナルが放つ独特の“死と再生”の物語は、今なお色あせることがない。

(文・編集部)

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【了】

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