1990年代最高の洋画は? 映画史に燦然と輝く金字塔(1)わずか16分間で歴史を変えた…究極のスリラーは?

text by 村松健太郎

スティーブン・スピルバーグとジョージ・ルーカスの出現によって、1980年にはハリウッド映画の娯楽性とクオリティがアップした。一方、90年代には多種多様な作品が登場。この時期のハリウッド映画に思い入れのある人は少なくないのではないか。今回は、1990年代を代表する洋画を5本厳選してご紹介する。第1回。(文・村松健太郎)

——————————

サイコスリラーの先駆作

『羊たちの沈黙』(1991)

映画『羊たちの沈黙』
映画『羊たちの沈黙』【Getty Images】

監督:ジョナサン・デミ
脚本:テッド・タリー
原作:トマス・ハリス『羊たちの沈黙』
出演:ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、テッド・レヴィン、アンソニー・ヒールド

【作品内容】

 アメリカ各地で若い女性ばかりを狙った“バッファロー・ビル”と呼ばれる連続殺人鬼の凶行が続いていた。そんな中でFBIアカデミーの実習生であるクラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)は“バッファロー・ビル”の心理を探るため収監されているレクター博士()に助言を得ることを命じられる。

 FBIへの協力を拒んでいたレクター博士だったが個人的にクラリスに興味を抱いたことで助言を与え始める。

【注目ポイント】

 トマス・ハリスの同名小説を原作とする映画『羊たちの沈黙』は、アカデミー賞において作品賞・監督賞・脚色賞・主演男優賞・主演女優賞という主要5部門を制覇した、映画史に燦然と輝くエポックメイキングな傑作である。

 この栄誉を手にしたのは、1934年の『或る夜の出来事』、1975年の『カッコーの巣の上で』、そして本作のわずか3作品のみ。極めて稀な快挙として語り継がれている。

 本作は、サイコスリラーというジャンルを一躍メインストリームに押し上げ、以後の同系統の映画作品に計り知れない影響を与えた。中でも特筆すべきは、アンソニー・ホプキンス演じるハンニバル・レクター博士の存在だ。精神科医でありながら、冷酷なシリアルキラーでもあるレクター博士は、わずか16分間の登場ながら、その知性と狂気が強烈な印象を刻み込み、映画史に残る“ダークヒーロー”としての地位を確立した。

 ホプキンスの演技はあまりに鮮烈で、レクター博士を主人公にしたスピンオフ作品も次々と製作された。前日譚にあたる『レッド・ドラゴン』(2002)や続編『ハンニバル』(2001)はいずれもホプキンス版レクターの人気と存在感があってこその展開であり、彼の演じたレクター像がいかに深く観客の心に焼きついたかを物語っている。

 タイトルの『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』は、主人公クラリス・スターリングの幼少期の記憶に由来する。幼い頃、彼女が体験したある出来事が心に深い影を落としており、その“沈黙”を破ることこそが、彼女の捜査にかける執念と信念の根源となっている。

 単なるスリラーにとどまらず、人間の心理の奥深さと善悪の曖昧な境界を鮮やかに描き出した本作は、ジャンルの枠を超えて映画芸術の頂点に立つ。公開から年月を経た今もなお、その功績と衝撃は色褪せることなく、世界中で語り継がれている。

【関連記事】
1990年代最高の洋画は? 映画史を塗り替えた金字塔(2)
1990年代最高の洋画は? 映画史を塗り替えた金字塔(3)
1990年代最高の洋画は? 映画史を塗り替えた金字塔(全紹介)
【了】

error: Content is protected !!