本当はバッドエンド? 原作と結末が全然違う日本映画の名作(4)失踪した先輩が変貌…衝撃展開のその後は?

text by 阿部早苗

同じ物語でも、文字で読む結末と映像で観るラストはこんなにも違う――。心の奥を揺さぶる衝撃、思いがけない温もり、突き放すような冷淡さ。原作と映画、それぞれが描く「最後の一手」に込められた意味を掘り下げながら、物語に秘められたもう一つの真実へと迫る。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。第4回。(文・阿部早苗)

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主人公の成長にフォーカスされたラスト

『火花』(2017)

菅田将暉
菅田将暉【Getty Images】

監督:板尾創路
脚本:板尾創路、豊田利晃
原作:又吉直樹
キャスト:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士、三浦誠己

【作品情報】

 鳴かず飛ばずの芸人・徳永(菅田将暉)は、熱海で異才の先輩・神谷(桐谷健太)と出会い「俺の伝記を作ってほしい」という条件のもと弟子入りする。常識外れの漫才に魅せられた徳永は神谷と酒を酌み、交わし芸を語り合う濃密な時間を過ごしていたが、次第に二人の間に小さな意識のずれが生じ始める。

【注目ポイント】

 又吉直樹の芥川賞受賞作を映画化した『火花』(2017)は、売れない芸人・徳永と、天才肌の先輩芸人・神谷の交流と挫折を描いた青春物語。映画版は板尾創路が監督を務め、菅田将暉が徳永を、桐谷健太が神谷を演じていた作品だ。

 師弟関係を結んだ二人の間には、売れない現実、表現への葛藤、そして将来への展望といった、わずかな意識のずれが生じ始める。やがてそれぞれの道を歩むことになるが、その絆が途切れることはなかった。徳永は芸人を引退し、不動産会社に勤める日々を送る一方、神谷は一年間の失踪の末、徳永のもとに連絡を寄こす。そして物語は、静かにラストシーンへとつながっていく。

 一年ぶりに再会した神谷が、豊胸手術を受けた姿で徳永の前に現れるという衝撃的な展開は、原作・映画のどちらにも描かれているが、改変されているのはその後だ。

 映画版では、徳永は神谷に「花火を見に行こう」と声をかけ、熱海へと誘う。その後、漫才大会出場者募集のチラシに目を留めた神谷が、「出よう」と徳永をしつこく誘いはじめる。乗り気でない徳永に対して、神谷はその場で即興のネタを披露し、やがて物語は静かにエンドロールへと向かう。徳永の成長や変化にも静かに焦点が当てられているのも印象的だ。

 一方、原作では徳永が神谷を熱海温泉へと誘い、二人は個室露天風呂付きの宿で、お笑い大会のポスターを見つける。満月が照らす夜、神谷は湯船に浸かりながら「とんでもないネタを思いついた!」と声を弾ませ、まるで少年のようにはしゃぐ。どこか滑稽で、しかし愛おしいその姿が印象的な、ユーモアと余韻を残すラストシーンとなっている。

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