史上最高の朝ドラは? 2020年代のベスト作品(3)完璧じゃない主人公に容赦なくツッコむ…大成功の要因は?

text by 苫とり子

1961年の開始以来、“朝ドラ”の愛称で親しまれているNHK連続テレビ小説。己の人生をひたむきに生きる主人公の姿が日本中をくぎ付けにしてきた。今回は、名だたる名作の中から2020年代のもっとも面白いベスト作品を5本セレクトしてご紹介。作品の魅力を解説する。第3回。(文・苫とり子)

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人間の良いところも悪いところも容赦なく描き出す“公平性”

『らんまん』(2023)

神木隆之介
神木隆之介【Getty Images】

演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志
キャスト:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、中村蒼、成海璃子、宮野真守、三山ひろし、いとうせいこう

 日本植物分類学の基礎を築いた植物学者・牧野富太郎をモデルとしたストーリー。普段は舞台作品を手がける劇作家の長田育恵が脚本を手がけた。

 のちに長田とNHKドラマ『燕は戻ってこない』(2024)で再タッグを組む板垣麻衣子プロデューサーが同番組についてのインタビューで長田脚本の“公平性”について語っていたのを覚えている。人間の良いところも悪いところも容赦なく描き出すと。

 それは『らんまん』にも顕著に現れており、主人公の万太郎(神木隆之介)でさえも完璧な人間ではなかった。造り酒屋の跡取り息子として生まれながらも、幼い頃から草花にしか興味がなかった万太郎。好きなものや夢のためなら努力やお金を惜しまず、世の中の常識や道理にも抗うまっすぐさは、時として傲慢に見えることも。

 それでも視聴者に嫌われなかったのは主演の神木隆之介が持つ天性の愛され力もあるが、脚本が巧妙だったから。視聴者が引っかかるところは周囲にいる人たちの台詞で指摘し、万太郎にしっかりと反省させるパートを作ることで、溜飲を下げていたように思う。

 また、妻となる寿恵子(浜辺美波)、万太郎の幼い頃からのお目付役・竹雄(志尊淳)、万太郎の姉・綾(佐久間由衣)など複数の視点から物語を描くことで、全員が主役とも言える群像劇に仕上げ、「この世に雑草という草はない」というメッセージを補強していた。

 寿恵子も「夫を献身的に支える健気な妻」ではなく「一緒に冒険を楽しむ並走者」として描かれていた点が、夫婦を描く朝ドラとしては画期的だった。何年経ってもラブラブな可愛らしい夫婦像に癒されていた人も多いのではないだろうか。

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【了】

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