2025年No.1は? 識者が選ぶカンヌ映画祭ベスト作品(4)インディペンデント映画の女王による強盗映画
text by 林瑞絵
映画の熱狂が世界を包む5月。カンヌ国際映画祭は、社会への鋭い視点とジャンルを超えた革新性をもつ数々の話題作を送り出してきた。今年は政治、家族、生命…それぞれの“いま”をえぐり取る5本の物語が、世界中の映画ファンの心をつかんだ。在仏映画ジャーナリストの林瑞絵さんに今年のカンヌで心に残った作品を5本挙げてもらった。第4回。(文・林瑞絵)
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軽やかさの中に潜む苦味、異色の絵画泥棒劇
『マスターマインド』
(監督:ケリー・ライカート)
「犯罪」を背景に据えた重めの作品が並ぶ今年のコンペティション部門。だが、本作は軽やかに語られる異色の強盗映画だ。ベトナム戦争が続く1970年代、米マサチューセッツ州で、絵画泥棒に手を染める元大工の男性が主人公。
妻と二人の子供と暮らす失業中の男は、警備が緩めの地元の美術館で抽象画の強盗を計画する。両親は裕福であり、それほど生活に窮している様子でもない。奇妙で行き当たりばったりの強盗は、すぐに暗礁に乗り上げるだろう。
流れるようなジャズの調べとともに、前半は粋で軽やかなコメディ調。しかし、問題は絵画を手に入れてから。未熟で利己的な主人公は、それなりの代償を払うことに。
監督は“米インディペンデント映画の女王”と称されるケリー・ライカート。これまでと同様、肩肘張らずにジャンル映画を解体して見せる。主演のジョシュ・オコナーは今最も注目される若手スター。今回のコンペ部門では、オリヴァー・ハーマナス監督のドラマティックなLGBTドラマ『ヒストリー・オブ・サウンド』にも抜擢。本作では、何かを成し遂げたくても不発で終わる平凡なアンチ・ヒーロー役が、オフビートなライカート節の中でしっくりとはまっていた。
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