史上もっとも過酷な撮影が行われた日本映画は?(4)五感に迫る…命がけの演技が生んだ極限状態のリアルとは?

text by 阿部早苗

極寒の雪山、吹きすさぶブリザード、そして限界ギリギリの肉体と精神。今回紹介するのは、日本映画史に残る「過酷なロケ地」で撮影された5本の邦画。役者もスタッフも命を懸けた壮絶な現場で生まれた作品には、CGでは表現しきれないリアルな臨場感が宿っている。感動と迫力の裏に隠された撮影秘話に迫る。第4回。(文・阿部早苗)

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9時間の冷水撮影、吹き替えなしの肉弾戦

『太陽は動かない』(2021)

藤原竜也
藤原竜也【Getty Images】

監督:羽住英一郎
キャスト:藤原竜也、竹内涼真、市原隼人

【作品内容】
 謎の組織AN通信に属するエージェントは、心臓に埋め込まれた爆弾により24時間ごとに死の危険にさらされる。鷹野と相棒・田岡は、全人類の未来を左右する次世代エネルギーをめぐり、各国のスパイたちと命を懸けた頭脳戦を繰り広げる。

【注目ポイント】
 吉田修一の同名小説を原作とした映画『太陽は動かない』(2021)は、藤原竜也と竹内涼真がバディを組んだスパイサスペンス。心臓に爆弾を埋め込まれたエージェントたちが、24時間以内に任務の報告をしなければ命を落とすという過酷な設定のもと、国際的な機密争奪戦に挑む姿が描かれている。

 本作の緊張感と迫力は、フィクションの枠を超えた“命がけの撮影現場”から生まれている。日本国内に加え、ブルガリアでも約1か月にわたりロケが行われ、カーチェイスや爆破シーン、激しい肉弾戦など、すべてのアクションがノースタントで撮影された。俳優たちは体を張ってリアルを追求し、物語に説得力と臨場感を与えている。

 中でも特筆すべきは、クライマックスのコンテナ船内でのシーンだ。沈没が始まり、海水が貨物倉に流れ込むなか、主人公・鷹野一彦(藤原竜也)が鎖に繋がれた仲間・田岡亮一(竹内涼真)を救おうと奮闘する。実際の撮影では、大量の冷水が張られた巨大セットが用意され、キャストは1日9時間以上も冷水に浸かったままの状態で芝居を続けた。濡れて重くなった衣装に加え、凍えるような水温が、肉体と精神に容赦なく負荷をかけた。
 
 その極限状態の中で生み出された演技の一瞬一瞬が、スクリーンの隅々にまで張り詰めた緊張感を宿している。『太陽は動かない』は、単なるエンターテインメントの枠に収まらない、リアルな“極限のドラマ”として観客の五感に迫る一作だ。現場の熱量がそのまま映像に焼きつけられた、骨太なスパイアクションである。

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【了】

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