実話が衝撃的…史実を基にした日本の戦争映画は?(3)半端ない緊張感…国の命運をかけた24時間の心理戦は?
2025年は、終戦してからちょうど80年という節目の年にあたる。戦争は、無惨にも多くの命と多くのものを奪った。それは決して忘れてはいけないことであり、二度と繰り返してはいけない。そこで今回は、実話を基にした日本の戦争映画の名作を5本セレクト。内容とともに、作品が強く訴えるポイントを紹介する。第3回。(文・阿部早苗)
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『日本のいちばん長い日』(2015)
監督:原田眞人
脚本:原田眞人
出演者:役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山﨑努
【作品内容】
1945年7月、日本は連合国からポツダム宣言を突きつけられ、降伏か本土決戦かという究極の選択を迫られていた。やがて広島・長崎に原子爆弾が投下され、終戦の決断はさらに困難を極めていく。国体の維持か、国民の命か——。陸軍大臣・阿南惟幾(役所広司)、内閣総理大臣・鈴木貫太郎(山﨑努)、そして昭和天皇(本木雅弘)らは、それぞれの立場で葛藤を抱えながら、日本の未来を決定づける24時間に向き合う。
【注目ポイント】
本作が描くのは、戦争そのものではなく「いかにして戦争を終わらせたか」という国家の内側に潜む緊張と苦悩である。原作は、半藤一利のノンフィクション書『日本のいちばん長い日』。戦争末期、政権・軍部・皇室が複雑に絡み合いながら、終戦という一つのゴールへと突き進む様子を、多角的な視点から精緻に描き出している。ちなみに同作は1967年に岡本喜八監督、橋本忍脚本、という錚々たる顔ぶれによって映画化されており、原田眞人監督による本作は2度目の映画化である。
映画は、ポツダム宣言受諾をめぐる閣議の緊迫感から始まり、昭和天皇による「聖断」に至る御前会議、さらには一部青年将校が反発し、クーデター未遂に発展した「宮城事件」へと展開。わずか24時間の出来事にもかかわらず、国家の命運を賭けた重厚な心理戦が展開される。
登場人物はすべて実在の人物であり、それぞれの苦悩と責任を背負って行動する姿が丁寧に描かれる。役所広司演じる阿南は、軍人としての矜持と国の命運の間で引き裂かれる。山﨑努が演じる鈴木首相の老練な政治判断、そして本木雅弘が静謐に演じる昭和天皇の存在は、この映画の重心を成すものだ。
なお、本作では事実を基にしながらも、一部フィクションを加えることで登場人物の内面や関係性をより明確にしている。東条英機による「サザエの殻」発言など史実に基づいた台詞の一方で、昭和天皇の返答や人物の心情表現には映画独自の脚色も施されている。
(文・阿部早苗)
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