ラストが原作と全然違う…改変で物議を醸した名作映画(5)映画版では削除された原作の激ヤバシーンとは?

text by 阿部早苗

ラストの数分で印象がガラリと変わる。原作が持つ余韻と、映画が描くメッセージ――どちらが“正解”かは一概に言えない。原作と異なる終わり方を選んだ5つの映画から見えてくるのは、時代、文化、作り手の想いが織りなすもうひとつの物語の可能性だ。今回は、原作とラストが異なる名作映画を5本紹介する。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。第5回。(文・阿部早苗)

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『時計じかけのオレンジ』(1971)

映画『時計じかけのオレンジ』の1シーン。中央は主演のマルコム・マクダウェル
映画『時計じかけのオレンジ』【Getty Images】

監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック
原作:アンソニー・バージェス
出演:マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ

【作品内容】

 近未来のロンドン。非行少年アレックス(マルコム・マクダウェル)は仲間と暴力とレイプに明け暮れていたが、殺人を犯し刑務所へ送られてしまう。

 しかし2年後、ある治療法の被験者となることで釈放されるが、それは自由と引き換えに人格を縛る過酷な選択だった——。

【注目ポイト】

 スタンリー・キューブリック監督による映画『時計じかけのオレンジ』(1971)は、アンソニー・バージェスの同名小説を原作としている。両者にはいくつかの決定的な違いがあるが、特に大きく異なるのは、原作に存在する「第21章」が完全に削除されている点だ。

 物語の主人公アレックスは、仲間たちとともに暴力やレイプといった快楽的な非行に明け暮れている。しかし、仲間の裏切りによって警察に捕まり、刑務所へと送られる。模範囚となった彼は、政府が導入を進める更生プログラム「ルドヴィコ療法」の被験者に選ばれ、暴力的衝動に対して強制的な嫌悪反応を抱くようになる。

 こうして“更生”したアレックスは、暴力を振るうことも、性的欲求を満たすこともできない存在となり、社会からも排除されていく。やがて、世論の反発と政治的打算のもと、政府はアレックスを「かつての姿」に戻す。映画は、彼が再び暴力と性的欲望に満ちた幻想的な世界に身を委ねるシーンで幕を閉じる――その結末は、アイロニカルで救いのない余韻を残す。

 しかし、原作小説にはこの“映画のラスト”の先がある。それが第21章で描かれる、アレックスの内面的な変化だ。

 かつての仲間たちと距離を置き、暴力に対する興味を徐々に失い始めたアレックスは、ある日、家庭を持ち落ち着いた生活を送る旧友と再会する。その姿に心を動かされ、自分も新たな人生を歩みたいという気持ちが芽生える。そして彼は、自らの意思で暴力を捨て、真の意味で更生しようと決意するのだ。

 この結末は、政府の強制的な洗脳ではなく、アレックス自身の成長と内発的な選択による変化を描いている。著者アンソニー・バージェスは、この21章に“人間の成長と希望”というメッセージを込めていた。

 だが、この章はアメリカ版では編集段階でカットされており、その編集版をもとにキューブリック監督が映画化したことで、希望の芽は取り除かれ、より冷酷で皮肉な物語として完成した。

 後にキューブリックは完全版(21章あり)を読んだというが、映画には反映されなかった。そのため映画版『時計じかけのオレンジ』は、原作とは異なり、暴力と自由意志の問題に対してより厳しく冷笑的な視点を持つ、強烈にアイロニカルな作品として語り継がれることとなった。

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【了】

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