2025年No.1は? 識者が選ぶカンヌ映画祭ベスト作品(5)生命は美しく強い…斬新かつ詩的なエコ映画は?

text by 林瑞絵

映画の熱狂が世界を包む5月。カンヌ国際映画祭は、社会への鋭い視点とジャンルを超えた革新性をもつ数々の話題作を送り出してきた。今年は政治、家族、生命…それぞれの“いま”をえぐり取る5本の物語が、世界中の映画ファンの心をつかんだ。在仏映画ジャーナリストの林瑞絵さんに今年のカンヌで心に残った作品を5本挙げてもらった。第5回。(文・林瑞絵)

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生命は、こんなにも美しく強い

『ダンデライオンズ・オデッセイ』
(監督:瀬戸桃子)

瀬戸桃子監督【Getty Images】
瀬戸桃子監督【Getty Images】

 昨年、カンヌ映画祭「ある視点」部門では、ラトビアから生まれた猫が主役のアニメ『Flow』が彗星の如く登場。洪水で流される動物たちを擬人化し過ぎずリアルに描き、米アカデミー賞長編アニメ賞にも選ばれた。

 その『Flow』の衝撃を思い出させるのが、瀬戸桃子監督の『ダンデライオンズ・オデッセイ』。カンヌ映画祭の独立部門「批評家週間」でクロージング上映され、国際映画批評家連盟賞に輝いた。タンポポの種たちが冒険する姿は、『Flow』の植物版とも呼びたくなる。生きとし生けるものたちのありのままが、すでに美しく驚きで溢れている。世界に目を開かされ、生命の讃歌が聞こえてくる斬新かつ詩的なエコ映画である。

 核爆発で吹き飛ばされたタンポポの種は、別の惑星にて旅を続ける。四つの種はそれぞれ微妙に個性があり、意志や感情も感じさせる。ふわりと飛ばされる旅の過程で、様々な自然現象が彼らの前に立ちはだかる。そびえ立つようなカエルやキノコらの登場も圧巻だ。

 アニメーションと紹介されるが、大半は本物の自然を撮影した映像で構成されており、実写作品に近い。驚きの映像はフランス、アイスランド、日本など世界各地で撮影されている。

【著者:林瑞絵プロフィール】

在仏映画ジャーナリスト。北海道札幌市出身。映画会社で宣伝担当を経て渡仏。パリを拠点に欧州の文化・社会について取材、執筆。海外映画祭取材、映画人インタビュー、映画パンフ執筆など。現在は朝日新聞、日経新聞の映画評メンバー。著書に仏映画製作事情を追った『フランス映画どこへ行く』(キネマ旬報映画本大賞7位)、日仏子育て比較エッセイ『パリの子育て・親育て』(ともに花伝社)がある。@mizueparis

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【了】

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