『相棒』史上最高のトリックは? ファンが唸った神回(4)虚実が逆転する完全犯罪…時代の先を読んだ警鐘回

text by Naoki

長年にわたって視聴者を魅了し続ける刑事ドラマ『相棒』では、実に多彩な犯人たちが登場する。中でも、視聴者の知的好奇心をかき立てるのが、緻密な計算のもと巧妙なトリックで犯行を遂げる「知能犯」の存在だ。現実的で思わず唸るようなものから、やや非現実的ながらも斬新な発想が光るものまで、そのトリックのバリエーションもまた『相棒』の大きな魅力のひとつである。今回は、特に印象深いトリックを用いた犯人たちを、厳選して5つ紹介しよう。第4回。(文・Naoki)

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虚実が逆転する時代の先を読んだ警鐘回

「ディープフェイク エクスペリメント」(シーズン18 第20話)

坂井真紀
坂井真紀【Getty Images】

ゲスト俳優:坂井真紀

【注目ポイント】

 Season18のエピソード「ディープフェイク・エクスペリメント」は、まさに現代社会が直面する最先端の技術的脅威を題材にした問題作だ。ここで描かれるのは、AI技術を活用した“フェイク動画”によって現実を偽装し、完全犯罪を企てるという衝撃的なトリックである。

 事件の鍵を握るのは、世界的にも高い評価を受ける映像研究者・鬼石美奈代(坂井真紀)。彼女は殺人を犯したにもかかわらず、その犯行時刻に“別の場所にいた”という映像を自らの技術で偽造し、アリバイ工作を完遂させる。その動画は、特命係が幾度となく分析を試みても、現行技術では“本物”としか判定できないほど精緻なものであった。

 さらに鬼石には、政界の黒幕・内閣官房長官の鶴田(相島一之)が後ろ盾として存在しており、正義を貫くことがますます困難な状況に追い込まれていく。法の網を巧みにすり抜ける鬼石と、それを許容する国家の闇。これはまさに、テクノロジーが倫理と法制度を凌駕し始めた社会への痛烈な警鐘でもある。

 本作の恐ろしさは、ドラマの中にとどまらない。エピソード放送当時、「写真は加工できても動画は真実」という認識がまだ一般的だった。しかし、以降現実社会でもディープフェイクを利用したフェイクニュースや誹謗中傷、詐欺事件などが頻発し、社会問題へと発展していった。

 加えて、この鬼石の技術はSeason20の「復活」でも再登場し、鶴田の陰謀の中核として悪用され、特命係を再び窮地に追い込む。また、Season22の「トレードオフ」では、ついにAIで生成された“フェイク杉下右京”の映像が拡散され、彼の名誉が著しく毀損される展開も描かれた。

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【了】

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