ガチで理解不能…史上最も難解な海外映画は? 謎多き名作(5)一体何を観せられているのか…衝撃と困惑の問題作

text by 阿部早苗

物語を理解しようとするほど深みにハマる。そんな“難解映画”には、繰り返し観ることでしか辿り着けない魅力がある。視覚や言語のトリック、哲学的な問いかけ、時間の歪み…。脳をフル回転させてもなお謎が残る、思考型シネマの迷宮へようこそ。第5回。※この記事は、映画のクライマックスについて言及しています。未見の方はご留意ください。(文・阿部早苗)

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同じ顔の男たちが孕む、見る者を拒む寓話的ホラー

『MEN 同じ顔の男たち』(2022)

ジェシー・バックリー
ジェシー・バックリー【Getty Images】

監督:アレックス・ガーランド
キャスト:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ

【作品内容】

 夫の死を目撃したハーパー(ジェシー・バックリー)は心の傷を癒すため田舎町へやってきた。だが出会う男たち全員が同じ顔をしており、次第に不可解な出来事が重なっていく。

【注目ポイント】

 アレックス・ガーランド監督による映画『MEN 同じ顔の男たち』は、一見ホラー映画の形式をとりながらも「これは一体何を観せられているのか?」という困惑と不安を与える極めて難解な作品だ。

 物語は、夫の死を目撃した女性ハーパーが心の傷を癒すため、イギリスの田舎町に滞在するところから始まる。しかし彼女の周囲に現れる男たちは、管理人、神父、警官、少年に至るまで、なぜか同じ顔をしている。そしてその顔はすべて、俳優ロリー・キニアが演じているのだ。

 この異様な演出は、ハーパーの内面に渦巻く罪悪感や恐怖、不信感といった感情を象徴的に映し出している。

 中でも最も衝撃的なのが、終盤に登場する男たちの出産シーンである。男が男を産み、さらにその男がまた別の男を産むという異様な光景は、グロテスクさと意味の不明瞭さが入り混じり、観る者を深い混乱へと誘う。思わず「これは一体、何を見せられているのか」と戸惑わずにはいられない。

 また劇中には、ケルト神話やキリスト教など随所に登場する。たとえばグリーンマンやシーラ・ナ・ギグといった文化的モチーフは、背景知識がなければ理解が難しく、特に西洋文化に馴染みのない人にとってはとっつきにくい要素となっている。

 説明を極力排した作りではあるが、耳にこびりつくような不穏な音響や、じわじわと迫りくる長回しショットは観る者の脳裏にこびりついて離れない。ガーランド監督ならではの巧みな視覚的、聴覚的演出によって、観客はハーパーが体験する精神的な圧迫感を、自らのものとして追体験することになるのだ。

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【了】

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