「ガチのヤクザが俳優に…」。ホンモノの犯罪者が登場する映画(3)。衝撃の経歴を持つ伝説のアウトロー
今回は実際に犯罪を犯した人物がスクリーンに登場する作品をセレクト。本人が出演するとなれば、クライム映画ではなく、もはやドキュメンタリー。出所後俳優として出演した作品から、伝説の殺人事件の犯人が出演する映画まで、演技では醸し出せないリアルな悪を目の当たりにできる至極の5本を紹介する。今回は第3回。(文・寺島武志)
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高倉健や菅原文太と共演したホンモノのヤクザ
激動の昭和を駆け抜けた伝説のアウトロー
『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』(1976)
製作国:日本
監督:田中登
脚本:高田純
キャスト:安藤昇、石橋蓮司、内田勝正、蟹江敬三
【作品内容】
1958年、安藤興業社長(安藤組組長)である安藤昇は、債券取り立ての依頼を受け、極東船舶社長・早川哲司を訪ねるも「やくざの出る幕じゃない」と、取り付く島もなく追い帰される。安藤は幹部を召集し、早川襲撃を命じる。
この日の夜、早川の元に組員の船橋一也(蟹江敬三)が早川の肩に発砲。一方、安藤はアリバイ工作のために、東京駅から大阪行きの特急こだまに乗り込んでいた。その後、安藤は、組員全員に徹底的な逃亡を命じた上で、自らも警察の捜査網をかいくぐって、都内に潜伏し、愛人宅を点々とする。本作は、安藤昇の34日間に渡る逃亡期間において、愛人や行きずりの女性、有閑マダムなどとの情事を記録した“ロードムービー”だ。
【注目ポイント】
本作の主演俳優であり、物語のモデルでもある安藤昇は、1926年生まれの元ヤクザであり、1960年代以降は俳優としても活躍した異色の経歴の持ち主。その人生はめまいがするほど壮絶だ。
15歳で感化院入り、18歳で少年院に収監されるなど、少年期から悪の道に突き進む。少年院を出た後、海軍航空隊に入隊するも、すぐに終戦となり除隊。大学入学を果たしたが、すぐに辞め、不良仲間と共に愚連隊を結成。1952年には不動産売買や水商売の用心棒、賭博などを手がける会社・東興業を設立。今でいう反社会的勢力であり、この会社はマスコミによって「安藤組」と呼ばれた。
安藤組は、旧来の暴力団とは異なり、背広を着こなし、刺青や指詰めを禁じ、その後、一般的となった「インテリヤクザ」の走りともいえる新たなスタイルを確立。若い世代からの支持を集め、最盛期には500人以上の構成員を抱え、中には大学生や高校生も在籍していたという。
巨大反社会的勢力のトップとなった安藤はその後、自身の自叙伝を映画化した『血と掟』(1965年・松竹)に自ら主演し、作品は大ヒット。松竹と契約金2000万円で専属契約を結び、映画俳優へ本格転向。当時の映画界では、所属俳優・監督の引き抜きを禁じる五社協定という決まりがあったが、そんなこと知る由もない安藤は、鶴田浩二、高倉健など、大スターを抱える東映に電撃移籍し、物議を醸した。
長身ではないが、端整な顔立ちに、生々しい左頬の傷跡、何より反社会的組織の元組長という経歴が買われ、数多くのヤクザ映画に出演。俳優転身後も暴力団関係者と盛んに交流し、賭博罪で警察に逮捕されたことも。
1979年、東映映画『総長の首』出演を最後に俳優を休業。これ以降はごく希にVシネマに出演する程度で、Vシネマのプロデュースや文筆活動に勤しみ、2015年89歳でこの世を去った。
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