闇が深い…上映禁止・お蔵入りの日本映画(3)。衝撃の傑作! 死者多発…実在する恐怖の学校、28年葬られる
映画の舞台挨拶で、監督や演者が感謝の言葉を口にする場面を見たことがあるだろうか。彼らは、映画が公開されるのは当たり前ではないということを知っている。苦労やトラブルに見舞われながら作り上げるものなのだ。しかし、この世にはせっかく作られたにも関わらず、公開中止された映画がある。今回は残念ながらお蔵入りの憂き目を見た映画を紹介する。(文・寺島武志)
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生徒の自殺・死亡が多発し社会問題に
戸塚ヨットスクールが出資・協力した問題作
『スパルタの海』(1983)
製作国:日本
監督:西河克己
原作:上之郷利昭
脚本:野波静雄
キャスト:伊東四朗、辻野幸一、山本みどり、小山明子、牟田悌三、香野百合子
【作品内容】
高校二年生の俊平(辻野幸一)は、短気で喧嘩っ早い性格の持ち主。度重なる問題行動にしびれを切らした両親は、彼を非行少年の更生施設として名を馳せる戸塚ヨットスクールに送り込む。スクールでも不遜な態度を見せる俊平に対し、校長の戸塚(伊東四朗)は、愛のムチという名の厳しい体罰で更生の道筋をつけようとするのだが…。
ノンフィクション作家の上之郷利昭が同スクールの合宿所に泊り込み、執筆した『スパルタの海 甦る子供たち』が原作。映画でも戸塚ヨットスクールが出資・協力しており、フィクションではあるが、校長は実名である戸塚宏のままで、伊東四朗が演じている。
【注目ポイント】
『スパルタの海』は、不登校、引きこもり、家庭内暴力、非行などの問題を抱えた子どもなどが入校し、「スパルタ式」の指導により矯正させるという売り文句で、校長の戸塚宏氏も、度々メディアに登場し話題となった「戸塚ヨットスクール」を舞台とする作品だ。当時は校内暴力が社会問題化していたため、同スクールが注目される社会背景もあった。
しかし当時、この作品が日の目を見ることはなかった、公開直前に「戸塚ヨットスクール事件」が発生し、校長の戸塚宏氏とコーチ15名が逮捕されたのだ。捜査が進行する過程で、入所者に自殺者が続出していたことが明らかになったのに加え、訓練中に生徒が死亡、あるいは行方不明になった事実が明るみに。
裁判の末、戸塚校長およびコーチらは有罪判決を受け、校長の戸塚は懲役6年の実刑で服役した後、2006年4月に刑務所を出所、スクールの現場に復帰することになる。
作品の大枠のテーマは問題を抱えた若者の更生に尽力する戸塚校長の奮闘記だ。殴る蹴るなどの理不尽なスパルタ指導のシーンも再現されている。
ただし、スクール側が全面協力しているため、内容もスクール寄りとなっている。その中で、戸塚校長の「本校の教育は行き過ぎているかもしれないが、そもそも親の教育がしっかりしていれば、戸塚ヨットスクールなんか必要ない」という主張は、皮肉なことに言い得て妙ではある。
安易にスクールに我が子を入校させる親と、そんな子どもを受け入れ、しごきを施すスクール側、どちらが悪なのか。そもそも、教育とは何かを考えさせる一作でもあるはずだ。
言うまでもなく、実際の事件に擁護すべきところは一つもない。どんな名目だろうと、大人が子供に手を出すなど言語道断だ。しかし、映画作品には、あえて極端な思想の持ち主や、過ちを犯した人間を描くことで、観る者に問題提起をもたらすという側面がある。
善悪などを超越した伊東四朗演じる戸塚校長の姿を見ていると、よく考えもせずに「とりあえず手に負えないから戸塚ヨットスクールにぶち込もう」という親の無責任っぷりに思い至るのも事実。公開されれば、この国の教育システムそのものに疑問を投げかける作品になったはずだ。
本作は、1983年に製作されたにもかかわらず、その後、2005年の有志による上映などを経て、制作から28年後の2011年になってようやく劇場公開された。
筆者のように「言うことを聞かないと戸塚ヨットスクールに入れるぞ!」という脅し文句で育ってきた世代であれば、色々と考えさせられる作品であると言えるだろう。
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