最も偉大な日本のアニメ映画は? 世界絶賛の傑作アニメ(2)辛すぎる早逝…日本アニメ界最高の天才が生んだ名作
これまで多くのアニメ作品が、国内独自の風土で育まれてきた日本。日本の貴重な文化の一部であり、お家芸ともいえるそんなアニメには、海外で絶大な人気がある作品も多い。今回は、有名監督が出がけた作品や、直木賞を受賞した小説が原作の作品など、日本のアニメ映画の中でも海外で高く評価されている良作を5本セレクトした。(文・寺島武志)
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原作者・筒井康隆が今敏監督を指名した不可思議な名作
『パプリカ』(2006)
上映時間:90分
監督:今敏
原作:筒井康隆
脚本:水上清資、今敏
キャスト(声優):林原めぐみ、江守徹、堀勝之祐、古谷徹、大塚明夫、山寺宏一、田中秀幸、こおろぎさとみ
【作品内容】
精神医療総合研究所の天才科学者である時田浩作が発明した他人の夢を共有できるセラピーマシン「DCミニ」が、ある日突然盗まれてしまう、その後、研究員たちは悪夢にうなされるようになり、精神が蝕まれていく。
謎の解明に挑む女性セラピスト千葉敦子は、極秘のセラピーを行うため、DCミニを使用して性格も容姿も変え「夢探偵パプリカ」に変身し、患者の夢の中へと入り込む。DCミニを悪用する犯人を追うが、夢が現実に流れ込み、夢と現実の境は曖昧になっていく。
【注目ポイント】
『時をかける少女』などで知られ、その行動が時に論争の的となったSF小説の大家・筒井康隆たっての希望で、今敏を監督に据え、アニメ映画化した作品だ。今もまた、筒井作品のファンだったことが、このドリームタッグを実現させた格好だ。
人形や電化製品が練り歩き、ハレーションを起こしそうになるほど、色彩を多用した悪夢の描写はアニメ映画の強みを存分に生かしている。
不可思議なストーリー展開も筒井康隆の原作の上に、今敏のアイデアが絶妙にマッチングしており、原作の大幅な改変を筒井が認めたお陰ともいえる。お互いの信頼関係に強固さが、この名作を誕生させたのだ。
日本アニメの監督として、同作でヴェネツィア国際映画祭のオフィシャルコンペティションに選出される快挙を成し遂げた今敏だが、わずかその2年後、膵臓がんで他界した。46歳の若さだった。
結果、本作は遺作となったが、彼の死後も、そのリアリティーあふれる作風は世界中のクリエイターに影響を与え続けている。『ブラックスワン』(2010)や『ザ・ホエール』(2022)で知られる、鬼才ダーレン・アロノフスキーも今が手がけたアニメに魅了された一人。『ブラックスワン』の鏡を使った演出には、今の初監督作品『パーフェクトブルー』の影響が見られる。
日本国内に目を転じると、今の才能を引き継ぐ者は未だ出てきていないものの、その作品にインスパイアされた才能が花開きつつある。彼はその作品とともに、確実に「人」を遺したのだ。
また、彼の作品のほぼ全ては90分以内に収まっている。これには「子どもにも飽きることなく見てもらいたい」という今の信念と優しさが込められているという。
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