邦画界最強の“役者バカ”は? 壮絶な役作りに挑んだ日本人俳優(2)衝撃の20kg増量…命がけで演じた名優
自分以外の人間を演じる“俳優”。彼らは時に、我々には想像を絶する役作りをしている。人を感動させるためだけに作られる映画に、体の一部や生活を差し出してまで演じるということは、一体どういうことなのだろうか。そしてその映画は我々に何をもたらしてくれるのか。今回は、俳優が壮絶な役作りをした映画を5本セレクトして紹介する。(文・野原まりこ)
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目標体重100kg
20kg以上増量して夭折した天才棋士を熱演
松山ケンイチ『聖の青春』(2016)
原作:大崎善生
監督:森義隆
出演:松山ケンイチ、東出昌大、リリー・フランキー、竹下景子、染谷将太、安田顕、柄本時生、北見敏之、筒井道隆
【作品内容】
村山聖(松山ケンイチ)は幼い頃から難病を患い、入退院を繰り返す中、父から将棋を教えられ、すぐにその面白さにのめり込んでいった。そしてプロ棋士になった聖は、同世代のライバル羽生善治(東出昌大)らと、死闘を繰り広げる。しかし、将棋にのめり込む聖の体はガンに体をむしばまれ…。
原作は大崎善生による、29歳で亡くなった棋士・村山聖の生涯を描いたノンフィクション小説。
【注目ポイント】
松山ケンイチが『聖の青春』を読んだのは、村山聖が亡くなったのと同じ歳の29歳の時だった。そして本作の監督・森義隆も原作と出会ったのが29歳の頃だったという。
“29歳”という不思議な縁で繋がり映画化された、映画『聖の青春』。
松山は原作を読んだ際、まさに“命を燃やす”という言葉通りの生き方をした村山に心を打たれ、自ら本作への出演を熱望。並々ならぬ想いで挑み、役作りのため20kg以上も増量。常に聖のことを考えていたという。
松山の完璧な役作りは、見た目のみならず所作や佇まいにも見られる。
村山聖を知る原作者の大崎善生は、対局中の姿のみならず、部屋でグダグダ過ごしている様子や友達とくだらない話に興じる姿までもが“村山聖とそっくり”だと語っている。
さらに、村山聖の師匠・森信雄も、村山とすっかり同化した松山の姿を見るなり、思わず「村山くん」と声をかけそうになったと回顧している。
将棋というものは、ただ指せばいいというものでもなく、対局中の姿勢や駒を置いた際に鳴る音など、突き詰めれば奥が深い。それらは、プロの棋士が何年も経験を積み重ねて体得するものである。
東出昌大演じる羽生善治との対局シーンでは、独特の緊張感や熱気を放ち、観るものを惹きつけて離さない。
松山は妥協を許さない役づくりで映画を成功に導くと同時に、第40回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞、第59回ブルーリボン賞で主演男優賞を受賞するなど、役者としての評価を不動のものにした。
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