邦画史上最怖のサイコパスは? 人の怖さを描く傑作日本映画(2)転落の名優が気持ち悪い…巨匠が描く本物の恐怖
連日報道される一線を超えてしまった人たちのニュース。金銭トラブルや殺人事件など、多くの人はそうした出来事とは無縁な生活を送っているのではないだろうか。しかし関わってはいけない人間は、確実に存在する。今回は、身近な恐怖が味わえる、人間の怖さを描いた日本の“ヒトコワ映画”を5本セレクトして紹介する。(文・市川ノン)
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洗脳されていく恐怖と気持ち悪さがリアルに描かれる
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)
原作:前川裕
監督:黒沢清
脚本:黒沢清、池田千尋
出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之
【作品内容】
前川裕の小説『クリーピー』を、ホラー・サスペンスの巨匠・黒沢清がメガホンを取り、映画オリジナルの展開で見せた。
元刑事で犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、自然の多い住宅地に引っ越してくる。隣人である西野(香川照之)のおかしな言動に高倉と妻の康子(竹内結子)は違和感を抱きつつも、新生活を続けていた。
ある日、高倉は過去に起きた一家失踪事件を追うことになる。独自捜査を続ける中、西野の娘から「あの人、本当のお父さんじゃありません」と言われるなど、高倉は次第に隣人への疑念に駆られていく。
【注目ポイント】
香川照之扮する西野の支離滅裂な言動、サイコパスな人柄、人間に対する想像を絶する仕打ちが衝撃的だが、本作の恐怖のポイントはそこではないだろう。ネタバレになってしまうが、西野は家族に取り入り、乗っ取ることを繰り返している人物で、西島秀俊扮する高倉が追っている一家失踪事件の犯人も彼だ。
つまり、西野は多くの人にとって空気のように存在している家族という単位に入り、内部から蝕んでいく。強固な関係に思われている家族がいかに脆く、あっさりとすり替え可能な存在であるのかが示されるのだ。「次はあそこの家にしよう」となんの躊躇もなく言い放つ西野は、そんな家族の脆弱性を知らしめる。
一方で、西野を追う高倉もやや常軌を逸している。一家失踪事件で唯一取り残された女性(川口春奈)の言葉に対し、面白い、興味深い、と気持ちを逆撫でするような相槌を打つ。高倉も西野と同じく、人間やその関係性を現象でしか捉えていないのではないか。犯罪を犯していないとはいえ、高倉と西野は紙一重だと思えて仕方がない。
無論、我々も彼ら同様、そうした心理の萌芽を少なからず持っているに違いない。日本を代表するホラー映画の巨匠である黒沢清が手がけた本作は、多くの人が直視することを恐れている真実を赤裸々に描くことで、幽霊や妖怪を登場させずとも、背筋が凍るような怖さを表現することに成功している。
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