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「毒のように美しい」岩井俊二監督の世界に誇る日本映画(2)才能が爆発…何気ない日々を丁寧に描く究極の名作

霧がかかったような美しくて儚い雰囲気の映像と文学的な表現に、じわじわと効く毒のように心を掴まれる岩井俊二作品。2023年10月に映画『キリエのうた』の公開を控え、2023年7月〜9月まで、歴代の岩井俊二監督の人気作品をYouTube上で無料公開を実施。新作への期待が高まる中、今回は歴代の岩井俊二監督作品を5本紹介する。(文・野原まりこ)

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岩井俊二が描く春と恋の物語

『四月物語』(1998)


出典:Amazon

監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演:松たか子、田辺誠一

【作品内容】

東京の大学に進学するために、卯月(松たか子)は北海道から上京することに。東京での暮らしや大学生活にも徐々に慣れていくが、ある日、本屋で高校時代に片思いしていた山崎(田辺誠一)と再会するのだが…。

【注目ポイント】

松たか子
松たか子Getty Images

四月物語は、春の風を閉じ込めたような映画だ。

冒頭から、期待の膨らむ様子を表したような淡いピンク色の桜をこれでもかというほど散らし、主人公・卯月の気持ちを表す。多くの人が経験する初めての一人暮らし。卯月の体験を通して、初めての景色を見る高揚感、新たな出会いが待ち受ける日々特有の不安などが、丁寧に描かれる。67分というコンパクトな上映時間も好ましい。

決してドラマティックな出来事が描かれているわけではない。物語の中心にいる卯月は終始穏やかな雰囲気を出し、受け身のスタンスでいる。何かが起こりそうで何も起こらない。にもかかわらず、画面から目が離せない。

一見大人しそうな卯月だが、上京した理由を誰にも言えないでいる。彼女は、実は憧れの先輩を追いかけて同じ大学に入学するという動機で上京していたのだった。映画は、雨と傘をめぐる、憧れの先輩とのさりげない交流が描かれて幕を閉じる。

『Love Letter』では雪、『リリイ・シュシュのすべて』では、夏特有の肌にまといつくような湿気と、気候の表現に冴えをみせるのが岩井演出。岩井の才能が十全に発揮された、美しいクライマックスとなっている。

今後、彼女は人生で一番大事な春を超え、夏や冬になっても先輩に恋をしていくのだろう。卯月の八月物語、十二月物語と、ずっとずっとこの恋の物語が続いていくことを想像すると、気持ちが温かくなる一作だ。

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