日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(3)さかなクン役を完璧に…唯一無二の圧巻演技
スポットライトを浴び、多くの人の視線を釘付けにする女優。他とは生まれ持った才能が違う…。側から見ればそんな風に見えないだろうか。しかし女優という仕事は綺麗なだけでは務まらない。彼女たちはこちら側に見せる面の裏で、我々には計り知れない凄まじい努力をしている。そこで今回は、壮絶な役づくりをした女優を5人紹介する。(文・野原まりこ)
————————-
唯一無二の演技でジェンダーレスな存在を完璧に体現
のん『さかなのこ』(2022)
原作:さかなクン
監督:沖田修一
脚本:沖田修一、前田司郎
出演:のん、柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音、さかなクン、三宅弘城、井川遥
【作品内容】
小学生のミー坊はお魚が大好き。将来はお魚さん博士になるのが夢だ。他の子とは違うミー坊に、父(三宅弘城)は心配していたものの、母(井川遥)はのびのびと育ててくれた。
高校生になったミー坊(のん)は、卒業後にお魚さんに関する仕事に就こうとするも、なかなかうまくいかず…。
【注目ポイント】
「ギョギョ」というフレーズと、“ハコフグ”の帽子でおなじみのさかなクンの半生を描いた本作。
沖田監督はのんを起用した理由として、「中性的な魅力があり、のんなら違和感なく不思議とすんなり入っていける気がした」と語っている。その審美眼には脱帽するほかない。
さて、本作でのんは、さかなクンを演じるにあたり、さかなクン本人のYouTubeチャンネルで独特な動き方の研究を重ねたという。また、さかなクンが素人だった高校時代、テレビ東京のバラエティ番組『TVチャンピオン』に出演していた頃の映像も役づくりの参考にしたそうだ。
のんとさかなクンはビジュアル面はまったく似ていないが、さかなクン特有のテンションや空気感が見事に再現されており、観ていて思わず息を呑む。たとえ他の役者がより巧みにさかなクンの外見に似せた演技を披露しても、“寄せている感”が出てしまい、逆に違和感が増幅されたのではないだろうか。
本作では、のんがあくまで本人としてさかなクンを演じることで、違和感を感じさせないどころか、むしろ観る者を引き付ける。それは一重に、のんの“人間としての魅力”に加え、さかなクンのエッセンスを換骨奪胎して異なる形で再現する、役づくりに向ける情熱に起因している。
“上手い演技”ではなく、”唯一無二の演技”。のんの役者としての魅力を形容するにあたって、これ以上に的確な言葉はないだろう。
【関連記事】
日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(1)
日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(4)
日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(全作品紹介)