日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(4)大女優が凄まじい…想像を絶する執念で大絶賛
スポットライトを浴び、多くの人の視線を釘付けにする女優。他とは生まれ持った才能が違う…。側から見ればそんな風に見えないだろうか。しかし女優という仕事は綺麗なだけでは務まらない。彼女たちはこちら側に見せる面の裏で、我々には計り知れない凄まじい努力をしている。そこで今回は、壮絶な役づくりをした女優を5人紹介する。(文・野原まりこ)
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1日最低6時間の猛特訓。
血のにじむような努力でプロのダンサーを演じきる
松雪泰子『フラガール』(2006)
監督:李相日
脚本:李相日、羽原大介
出演:松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代、岸部一徳、富司純子
【作品内容】
昭和40年、福島県いわき市は炭鉱の閉鎖により、職を失う者が後を絶たなかった。そこで新たな収入源として「常磐ハワイアンセンター」の計画が持ちあがった。
その施設でフラダンスショーが行われることになり、地元の女性からダンサーを募集することになる。東京から招かれたダンスコーチの平山まどか(松雪泰子)は、嫌々ながらも指導に当たるが…。
【注目ポイント】
福島県いわき市にある常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)の成り立ちを描く、実話を元にした映画『フラガール』。
本作で松雪が演じたのは、常磐音楽舞踊学院最高顧問・早川和子さんをモデルにしたプロのダンサーだ。松雪はクランクインの2ヶ月前からフラダンスの猛特訓を始め、1日最低6時間、多い日には8時間も練習に費やした。
身体を酷使する練習を1日6時間以上も行うとは、体の方も心配になる。考えてもみてほしい。体力が有り余っていた学生の頃でさえ、部活動の練習は多くて3時間くらいだろう。当時30代だった松雪は、その倍も体を動かしていたことになる。
本人のダンス経験はというと、幼い頃に少しだけバレエをやっていたというものの、経験値はほぼゼロに近い状態。劇中で披露した軽やかで艶があるダンスシーンは、まさに努力の賜物である。
さらに、ダンスの先生という役を務め上げるため、通常の振り付け以外にも鏡に向かって踊るための反転した動きや細かいステップも覚えた。ちなみに松雪本人は踊りを覚えるだけでなく、役の内面を表現するという面でも苦労したと語っている。
本作で興味深いのは、実話と同じく素人から一人前のダンサーになった女性たちと同じように、ダンサー役の女性は、全員ダンス経験ゼロの人たちでキャスティングされているという点だろう。
普通ならダンス経験者を集めて、できない風に装ってもらえば撮影もスムーズに進むし、何よりも見応えのあるダンスシーンが撮れそうなものだ。しかし、李相日監督はそうしたアプローチはとらず、ダンサーたちが撮影を通じてダンスに馴染んでいく過程を撮ることで、映画にドキュメンタリーのような強度を与えている。
ラストシーンで激しいフラを披露するキャストたちのイキイキとした表情を見ていると、こちらにまで笑顔が伝染するよう。
観客が知る由もない舞台裏に隠されたドラマに思いを馳せることで、映画はさらに味わい深くなる。上記の内容を踏まえてぜひ松雪泰子をはじめとしたキャスト陣の熱演に視線を注いでみてほしい。
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