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「完全に狂ってる」新興宗教・カルト教団が登場する日本映画(4)。悪夢の闇…モヤがかかった気持ちになる傑作

text by 編集部

オウム真理教が暗躍しはじめた1980年代以降、日本ではたびたびカルト教団が世間を騒がせてきた。カルト教団が引き起こした事件は映画の作り手の想像力を刺激し、その結果生み出された作品は、現実を鋭く見つめかえす力をもっている。今回は、カルト教団が登場する日本映画の中でも、観る者の人生観を揺さぶる作品をセレクトした。

(配信状況に関する情報は2022年8月時点のもの)

大量殺人の罪を犯したカルト教団
加害者家族の苦悩を描く

『DISTANCE』(2001)


出典:amazon

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
キャスト:ARATA、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信

【あらすじ】

無差別殺人事件を起こしたカルト教団「真理の箱舟」。実行犯である5人の男女は教団の手によって殺され、教祖は自殺。真相は未だ謎に包まれたまま、事件から3年の月日が経ち、実行犯5人の命日がやってきた。それぞれの遺族は「真理の箱舟」の拠点となっていた山奥の湖に集まり、供養をすることに。しかし、車を盗まれてしまったことから、実行犯たちが身を隠していたロッジで一晩を過ごすことになった。元信者の坂田(浅野忠信)も交えて、過去と向き合う遺族たち。彼らはみな、加害者と被害者のはざまで苦悩する日々を過ごしていた。

【注目ポイント】

監督の是枝裕和【Getty Images】
是枝裕和監督Getty Images

『万引き家族』(2019)でカンヌ国際映画祭の最高賞となるパルムドールを受賞した是枝裕和による、3本目の長編劇映画。説明的なセリフは省かれ、映画音楽は一切使用されていない。ドキュメンタリーを思わせるリアルで静謐な演出が特徴的な作品となっている。キャストにはそれぞれの出演部分だけ書かれたシナリオを手渡し、物語の全体像がわからない状態で撮影が行われたという。

大量殺人事件を起こしたとされるカルト教団「真理の箱舟」のモチーフとなったのは、1995年の「地下鉄サリン事件」で世間に衝撃を与えたオウム真理教。映画『DISTANCE』では教団によるテロ事件そのものは描かれず、遺族たちの葛藤や、随所で挿入される回想シーンによって、入信する直前に交わしたやり取りが描かれる。その点、カルト教団をエンタメの具材として利用した『愛のむきだし』とは全く異なるアプローチで、カルト宗教の本質に迫ろうとした意欲作だと言える。

とはいえ、遺族たちがどんなに思考をめぐらせても、愛する者がなぜカルト宗教にハマり、殺人に手を染めるまでに至ったのかは、張本人がすでにこの世にいない以上、真相はわからない。本作では、遺族たちが抱く疑問の受け皿として、元信者の坂田というキャラクターが登場する。浅野忠信演じる坂田は生前の信者たちとの交流を思い出し、誠実に言葉にする。しかし、遺族たちが求めている答えは決して出てこない。

ドラマチックな解決ではなく、謎と向き合い続ける姿を描くため、モヤがかかったような気持ちになる作品である。しかし観終わったあとは、カルト宗教の闇について、それまでとは異なる視点から考えを深めることができるだろう。

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