まるで毒…最悪の犯罪の引き金に? 史上最も危険な名作映画(3)模倣犯が続々…傑作が悲劇を産んだ要因とは?
映画は心の薬だ。スリリングなサスペンスやミステリー、人生を描くヒューマンドラマは、人々にとって娯楽であり刺激であり、日々を彩るのに役立つ。しかし同時に、毒になる危険性もはらんでいる…。中には映画を悪用し、事件を起こしてしまう者がいるのが現実だ。そこで今回は、皮肉にも犯罪者を生み出した映画を5本紹介する。(文・寺島武志)
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模倣犯を続々と生み出した名作にして問題作
『天国と地獄』(1963)
上映時間:143分
製作国:日本
監督:黒澤明
原作:エド・マクベイン
キャスト:三船敏郎、仲代達矢、香川京子、三橋達也、山崎努、木村功、石山健二郎、加藤武、佐田豊
【作品内容】
ある日突然、製靴会社の常務・権藤金吾に、子どもを誘拐したという電話が入る。しかし権藤の息子はさらわれてはいなかった。単なるいたずらかと安心していたが、権藤の運転手である青木の息子がいなくなっていることに気づく…。
【注目ポイント】
本作の監督は黒澤明、主演は三船敏郎。いずれも海を超えて活躍した映画人だ。この名前だけで当時の映画ファンは心躍ったに違いない。
製作に至った経緯は、黒澤が「たまたま読んだ」という、エド・マクベインの小説「キングの身代金」を気に入り、推理を題材の軸とした現代劇を製作する動機となった。さらには、当時の誘拐罪に対する罰則の軽さにも不満を抱いていたという。
本作は大ヒットしたものの、思わぬ副作用を生んでしまう。作品の影響を受けて身代金誘拐を犯す、いわゆる「模倣犯」が続出したのだ。公開の同年には「吉展ちゃん誘拐殺人事件」、1980年にも「名古屋女子大生誘拐殺人事件」が起きてしまう。
しかしながら他方では、公開翌年の1964年、刑法が一部改正され、身代金目的の誘拐には、無期または3年以上の懲役という思い罰則が科されることになるきっかけとなった。黒澤が抱いていた思いが法律をも動かしたことで、かすかながらも達成感はあっただろうが、模倣犯が生まれてしまったことは、皮肉としか言いようがない。
ストーリーは、製靴会社「ナショナル・シューズ」専務・権藤金吾(三船敏郎)の息子と間違えられて、運転手の青木(佐田豊)の一人息子の進一が誘拐される場面から始まる。青木は男手一つで進一を育てていた。
要求された身代金は3,000万円。権藤は苦悩するが、部下のために全財産を投げ出して身代金を用意、犯人に渡し、誘拐された進一を救出する。しかし犯人を取り逃がしてしまう。
身代金の受け渡しは「特急こだまに乗車し、酒匂川の鉄橋から、金が入ったカバンを窓から投げ落とす」というもの。客車の窓は開かなかったが、洗面所の窓は、指定されたカバンがちょうど通る大きさ。この描写から相当な知能犯であることが分かる。進一の姿を確認した上で、権藤はカバンを落とす。
原作ものではあるが、黒澤明ならではの斬新な発想によって、人間とは何かを問い質していく奥の深い作品である。「走っている電車等から現金等を落とす」という映画的なアイデアが、現実に応用されて悲劇を生んでしまったものの、作品としての価値は月日が経つごとに高まり続けている。
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