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まるで毒…最悪の犯罪の引き金に? 史上最も危険な名作映画(4)日本が震撼…悲劇を生んだキャラクターとは?

text by 寺島武志

映画は心の薬だ。スリリングなサスペンスやミステリー、人生を描くヒューマンドラマは、人々にとって娯楽であり刺激であり、日々を彩るのに役立つ。しかし同時に、毒になる危険性もはらんでいる…。中には映画を悪用し、事件を起こしてしまう者がいるのが現実だ。そこで今回は、皮肉にも犯罪者を生み出した映画を5本紹介する。(文・寺島武志)

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「ジョーカーになりきろうと思った」
日本を震撼させた“ハロウィンの悲劇”

『ジョーカー』(2019)

ホアキン・フェニックス
ホアキンフェニックスGetty Images

上映時間:122分
原題:Joker
製作国:アメリカ
監督:トッド・フィリップス
脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルバー
キャスト:ホアキン・フェニックス、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ビル・キャンプ、シェー・ウィガム、ブレット・カレン、

【作品内容】

1980年代初頭のゴッサムシティ。貧富の格差が拡大し、街は犯罪行為が横行している。貧しく孤独な青年・アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、コメディアンとして成功することを夢見ながら、派遣ピエロのアルバイトで生計を立てている。彼は「突然笑い出す」という精神疾患を患っており、メンタルクリニックに通っていた。

【注目ポイント】

日本国内の興行収入は50億円を超える大ヒット作にも関わらず、その名が世間一般に知られるようになったのは、2021年のハロウィンの夜に起きた「京王線刺傷事件」がきっかけだろう。

犯人は本作の主人公であるジョーカーのコスプレをした上で、特急列車の車内で乗客をナイフで刺し、車両に火を放った。犯行当時26歳だった無職の男は、取り調べや法廷でも反省の色を見せることなく「死刑になりたかった。僕なんか生きている価値はないと思う」と開き直り、結果、懲役23年が確定し収監中だ。

加えて、多くの被害者は心や体に傷を負ったままで、現在でもフラッシュバックに悩まされ続けている。

本作は、人気シリーズ『バットマン』のアナザーストーリーで、ピエロのメイクを施し、その狂気じみた悪行で世を恐怖に陥れる“悪のカリスマ”ジョーカーがいかにして誕生したのかを描いている。

都会に出て、一流のコメディアンになるという夢を持つジョーカーことアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、心優しき青年から、次第に人殺しに手を染める極悪ピエロに変貌していく。暴力や殺人を美化しているともとれ、精神疾患に関する描写にも問題を指摘されるなど、有識者から激しい批判を浴びた作品でもある。

一方、現実の京王線事件には、さらに動機があった。9年間も交際していた女性と、経済的な理由で別れを告げられ、その女性が、それからわずか半年で別の男性と結婚したこと。さらに、契約社員として勤務していた会社で、些細なミスから、本意ではない部署異動を命じられ、退職に繋がったことだ。

社会に復讐するために、大量殺人を計画し、キャラクターを探しているうちにたどり着いたのが、たまたま「ジョーカー」だったのだ。

男はジョーカーについて「命を軽く見ている、殺人についてなんとも思っていないようにも見える。それくらいの感覚を持たないと殺人を犯すことができない。目標というか、なりきろうという気持ちがあった」と述べている。

日本に限らず、特に米国では、映画などに感化され、銃乱射などの大量殺人事件が度々起こる。その度に作品自体が批判を浴びるが、それは筋違いだろう。

凶悪犯を生む背景は、他ならぬ「現実社会」だ。そこに目を向けないことで本質を見誤っているのだ。作品に携わった多くのキャストやスタッフにとっては、思わぬ“もらい事故”に遭ったようなものだろう。

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