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2010年代で最も素晴らしい映画は? 10年に一本レベルの超名作(3)吐き気がするほど…歴史を変えた傑作は

text by 編集部

2010年代に発表された数々の名作の中でも、賞レースを席巻し、観客から受け入れられ、批評家を唸らせ、かつ、今に至るまで作り手の創作意欲を刺激し続けている映画を5本セレクト。約130年に及ぶ映画の歴史においても、傑作と呼ばれる作品は数少ない。ここでは、そんな稀少な作品群の魅力を解説する。(文・編集部)

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ホラー映画のネクストステージを示したマスターピース

『ゲットアウト』(2017)

ジョーダン・ピール
ジョーダンピールGetty Images

製作国:アメリカ
監督:ジョーダン・ピール
脚本:ジョーダン・ピール
キャスト:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、スティーヴン・ルート、ラキース・スタンフィールド、キャサリン・キーナー

【作品内容】

アフリカ系アメリカ人の写真家クリス(ダニエル・カルーヤ)は、週末に白人の彼女・ローズの実家へ招待される。クリスはローズの家族から歓迎を受けるが、そこで多くの違和感が彼を襲う。庭を猛スピードで走り去る管理人。窓ガラスに映る自分の姿をじっと見つめる家政婦の存在。とある黒人の若者は、写真を撮ると、鼻から血を流し、態度を豹変させる…。

【注目ポイント】

ジョーダン・ピールのサイコホラー『ゲット・アウト』は、製作費約450万ドル(約4億9500万円)という超低予算ながら、意外性に富んだ展開、人種差別問題への鋭い問いかけ、当時、ほぼ無名に近かった主演のダニエル・カルーヤの鬼気迫る演技、そして何よりジョーダン・ピール監督の初監督作品とは思えない緊張と緩和を駆使した演出によって、世界中で大ヒット。批評家からの高い評価も勝ち取った。

映画は穏やかなトーンで幕を開けるが、ローズの実家である「アーミテージ家」の真実が徐々に暴かれていくにつれて、これまで映画が描いたことのなかったような恐怖を観客に叩きつける。

庭を猛スピードで走り去る管理人、窓ガラスに映る自分の姿をじっと見つめる家政婦など、挙動がおかしいローズ家の黒人たちは皆洗脳されており、白人たちに仕える従順な奴隷として“改造”されていたのだった。

本作が描く恐怖は多重的だ。序盤は、黒人である主人公の目から見たアーミテージ家に仕える同胞たちの不気味な挙動を描きつつ、徐々にアーミテージ家の面々のおぞましい欲望を浮き彫りにする。終盤は、身柄を拘束された主人公が洗脳の魔の手から逃れようとする姿がアクション豊かに描かれる。

中でも重要なのは、白人の欲望が浮き彫りになることで生じる2つ目の恐怖だろう。黒人を人間ではなくモノとしてしか見ていない白人至上主義者たちが形づくる「上辺だけユートピア」は、白々しい印象を与えると同時に吐き気をもよおすほどおぞましい。これは他の映画ではあまり味わえない恐怖である。

ジョーダン・ピールを一躍巨匠に押し上げた本作は、恐怖演出に社会的な意義を持たせることで、ホラー映画のネクストステージを示すことに成功している。

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