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『古畑任三郎』史上最高の神回は? 全43話中、最高に面白い傑作(3)鳥肌の展開…完全犯罪成功の女の悲哀は?

text by 編集部

三谷幸喜が脚本を手掛けた刑事ドラマ『古畑任三郎』が、放送開始30周年を記念してフジテレビ系列で一挙放送される。そこで今回は、これまで放送された全43話の中から、珠玉の神回を5つ紹介。古畑が対峙した最強の犯人や事件が起きない異色回など、ドラマの魅力を余すことなく紹介する。(文・編集部)

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完全犯罪に成功した未亡人の悲哀
バスの中で完結する“安楽椅子探偵もの”

「ニューヨークでの出来事」VSのり子・ケンドール(鈴木保奈美)

のり子・ケンドール役の鈴木保奈美
のり子ケンドール役の鈴木保奈美Getty Images

放送:1996年3月13日
演出:河野圭太
出演:田村正和、鈴木保奈美、西村雅彦

【作品内容】

かつて古畑と対峙した小石川ちなみ(中森明菜)の結婚式に参加するため、ニューヨークを訪れていた古畑と今泉は、夜行バスで同じ日本人であるのり子・ケンドール(鈴木保奈美)と隣り合わせる。はじめのうちは何気ない雑談を交わしたり、ゲームを楽しんだりしていた3人。しかし、古畑と今泉が刑事であることを知ったのり子は、友人が成し遂げたという完全犯罪について話し始める。

【注目ポイント】

ミステリーの用語に、「安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)」というものがある。これは、探偵が現場に赴かず、新聞記事などの情報を頼りに室内で事件を解決してしまうというタイプのミステリー作品を指す言葉だ。そういう意味で本話は『古畑任三郎』流の“安楽椅子探偵もの”といえるだろう。

本話は、第2シーズンの実質的な最終話(放送後のスペシャル版として『しばしのお別れ』が放送)。のり子・ケンドール役を『東京ラブストーリー』(1991)で一世を風靡した鈴木保奈美が演じる。

本話の最大の魅力。それは、ひとえに鈴木演じるのり子・ケンドール、いや、彼女の「友人」のキャラクターにある。

大学卒業後に渡米しモントレーの出版社に勤めた彼女は、仕事先で知り合った人気小説家ネルソン・ケンドールと結婚する。しかし、彼女はある日、突如として夫から10年来の不倫を明かされることになる。そして、憎しみをたぎらせた彼女は彼を毒殺。当初は有罪になることを覚悟の上で犯行に及んだ彼女だったが、結局友人の証言や弁護士の力であれよあれよと言う間に無罪放免になってしまう。

本来ならば両手を挙げて喜びそうな状況だが、のり子によれば、それでも彼女は「罰を受けた」という。というのも、世間に戻った彼女を、死んだ夫の莫大な印税と、長年にわたる夫の不倫を暴露されたことによる世間の冷たい目線が待っていたからだ。まるで、自らが犯した罪を贖うように告白したのり子は、バスの車窓を眺めながら古畑につぶやく。

「こんなことなら、あなたに事件を担当して欲しかったわ」
「完全犯罪なんてするもんじゃありません。彼女に会ったら、そう伝えてください」

本話を語る上で欠かせない人物がいる。第1シーズンの第1話で登場した小石川ちなみ(中森明菜)だ。ちなみは彼女同様に不倫のかどで彼氏を殺害し、古畑に捕まっている。しかし今は古畑と犯人として対峙する小清水潔の弁護で無罪を勝ち取り、ニューヨークで幸せな人生を送っている。

完全犯罪に失敗したものの幸せをつかんだちなみと、完全犯罪に成功したものの不幸になったのり子の「友人」ー。もし彼女の事件を古畑が担当していれば、彼女も幸せな日々を送っていたのかもしれない。

本話のラストでは、バスの乗客たちが一期一会の別れを惜しむ中、のり子はサングラスで目を隠し、凛とした表情でニューヨークの雑踏に消えていく。古畑はそんな彼女を見送りながら、彼女の孤独に遠くからそっと手を差し伸べる。本話のエンディングで映る在りし日のワールドトレードセンタービルは、孤独の底で通じ合う2人を象徴しているように思えてならない。

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