絶望で最悪なエンディング…救いなき結末の傑作日本映画(3)美少女の残酷な末路…胸をえぐる最高の演出とは?
世間には見る者の心をドン底に突き落とすような後味の悪い映画が存在する。しかし、その後味の悪さは妙に後を引く。今回はそんな危険な魅力を孕んだ後味の悪い結末の日本映画をご紹介。結末の内容に深く切り込むため、物語のラスト(=ネタバレ部分)を記すので、未見の方は注意していただきたい。(文:村松健太郎)
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観客の想像力を刺激する無情なラスト
『害虫』(2002)
上映時間:92分
監督:塩田明彦
脚本:清野弥生
キャスト:宮﨑あおい、田辺誠一、沢木哲、天宮良、石川浩司、蒼井優、伊勢谷友介、りょう、すずき雄作、米岡ゆり
【作品内容】
不安定な環境に生きる中学生のサチ子(宮崎あおい)は不登校になり、当たり屋の青年たちと街をぶらつく日々を送る。学校生活はうまくいかず、様々な事件に次々と見舞われる。
【注目ポイント】
NHKの朝ドラと大河ドラマ、両方に主演した数少ない女優・宮﨑あおいの若き日の演技に魅せられるビターな物語。
友人役に蒼井優が出演。さらに、田辺誠一、りょう、大森南朋がそれぞれ重要な役を演じており、今となっては大河ドラマや大作映画でないと再現不可能なほどの豪華キャストのそろい踏みである。
監督の塩田明彦はぴあフィルフェスティバルから出た才能の一人で、初長編作品となる1999年の『月光の囁き』が海外でも高い評価を受けるなど当時、注目の若手監督の一人だった。そんな塩田が2002年に発表した異色の青春映画が本作だ。
映画の終盤、サチ子はほんのいたずらの気持ちで友人の家に放火してしまう。蒼井優演じるこの友人はスクールカーストの上位に位置する人物であるが、周囲から異端者扱いされているサチ子を気にかけ、彼女が孤立しないように気を配っていた。
そんな友人の家に、ホームレスの男と一緒に火炎瓶を投げつけ、笑みを浮かべるサチ子。友人の振る舞いに偽善を見出したことが放火のきっかけとなったのか…言葉をそぎ落とした塩田明彦の演出は、主人公の内面を説明することはなく、あくまで観客の想像に委ねる。
逃げ出したサチ子は禁断の恋愛関係にあったかつての小学校時代の担任と会う約束をするも、担任はなかなか現れない。
そんな中、怪しげな若い男に声を掛けられる。誘いに乗ってしまったサチ子は店を出る。入れ違いに担任がやってきたことに気が付きつくも、そのまま男の車に揺られて行ってしまう。呆気なくも、妙に印象に残るラストシーンだ。
ちなみにサチ子に声をかける男を演じているのは若き日の伊勢谷友介である。短髪にピアス、鼻にかかった軽薄な喋り方…佇まいから言動に至るまで、水商売の斡旋人にしか見えないが、塩田はここでも説明をすることはなく、彼の正体をほのめかすにとどめている。
若い世代には希望をもって生きてもらいたいと大人は語るが、そうは言っても現実は過酷である。前途明るい主人公が未来に向かって力強く一歩を踏み出す…よくある青春映画の結末とは正反対の苦すぎるラストは必見である。
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