絶望で最悪なエンディング…救いなき結末の傑作日本映画(5)死刑判決が確定…最悪の実在事件を描く衝撃作は?
世間には見る者の心をドン底に突き落とすような後味の悪い映画が存在する。しかし、その後味の悪さは妙に後を引く。今回はそんな危険な魅力を孕んだ後味の悪い結末の日本映画をご紹介。結末の内容に深く切り込むため、物語のラスト(=ネタバレ部分)を記すので、未見の方は注意していただきたい。(文:村松健太郎)
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”東大阪集団暴行殺人事件”をモデルにした暗い青春映画
『ヒーローショー』(2010)
上映時間:134分
監督:井筒和幸
脚本:吉田康弘、羽原大介、井筒和幸
キャスト:後藤淳平、福徳秀介、智順、米原幸佑、桜木涼介、林剛史、阿部亮平、石井あみ、永田彬、結城しのぶ
【作品内容】
最初期の代表作『ガキ帝国』(1981)以降、大阪を舞台にした、暴力&青春劇を手掛けてきた井筒和幸監督作品。当時売り出し中だったお笑いコンビ・ジャルジャルがW主演を果たしたことでも話題になった。
【注目ポイント】
井筒和幸監督が大阪を舞台にバイオレンス色の強い青春劇をジャルジャル主演で撮るという第一報が入った時は『ガキ帝国』はもちろん、『岸和田少年愚連隊』(1996)や『パッチギ』(2005~2007)2部作も同じ系統の作品だったことを想起し、ワクワクさせられた。
しかし、蓋を開けてみると、それらの作品とは一線を画す、ドライなバイオレンス映画に仕上がっていて衝撃を受けた。とはいえ、笑いどころが一切ないわけではなく、所々にブラックな笑いが健在なので井筒監督作品らしさもちゃんとある。
作風変更の背景には、本作が実際に起きた事件に基づいているという事実がある。モデルとなった”東大阪集団暴行殺人事件”は2006年に発生した目を覆いたくなる陰惨な事件である。
この事件は主犯格の人間に最終的に死刑判決が確定している。本作には、頭の中で作った物語では醸し出すことのできない不穏さが終始漂っており、エンディングも事実に基づいていると思うと見え方も大きく変わる。
血で血を洗う復讐の連鎖が続く中、ジャルジャル・後藤演じる元不良ではあるものの、更生への道を歩んでいる男が血祭りにあげられる。
暴力の連鎖を描いた映画といえば、奇しくも本作と同年公開の北野武監督作品『アウトレイジ』が挙げられるが、同作に登場するのはキャッチコピーどおり「全員悪人」であるため、凄惨な暴力描写は痛ましさよりも滑稽さを際立たせる。一方で本作に登場するのは、どこにでもいそうな青年ばかり。等身大の登場人物たちがふとしたきっかけで道を踏み外し、殺し合う関係に発展する…そのおぞましさを徹底して描き込んだ点に本作の白眉がある。
井筒和幸監督はその作家性については常に賛否がついて回る人物である、ただその個性故に得難い作品を残している人でもある。
近年は情報番組のご意見番的立ち位置が定着して、映画監督としてはすっかり寡作モードに入ってしまっているが、もう少しコンスタントに作品が見たいところでもある。
劇映画は物語をもったものであるため、どれだけ上映時間が長くても最終的に結末はやってくる。シリーズもので、続編の可能性があっても、一本一本、それ相応の結末は用意されている。
中には今回挙げた様に最悪な後味を残して終わる映画もある。そんなに後味が悪い作品ならば見なければいいではないかという意見もあるだろうが、後味の悪さはある種の禁断の果実的な蠱惑的な魅力を放ち、気が付くと二度、三度と作品を見返してしまう。
現実世界がハッピーエンドよりバッドエンドの方が多いという悲しい現実がそうさせているのかもしれない。
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