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『相棒』屈指の神回は? 成宮寛貴が最高…甲斐享編の傑作(5)まさかの結末に唖然…倫理観をゆさぶる逸品

text by Naoki

優秀だが変人の刑事・杉下右京が、相棒と共に事件を解決していくドラマ『相棒』。2000年から2024年現在まで続くシリーズは約400話を超え、テレビドラマの他にも映画や演劇としても親しまれている。今回は、3代目相棒・甲斐享(成宮寛貴)の回の中でも伝説的なエピソードをセレクト。その面白さの真髄に迫る。(文・Naoki)

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倫理観を問う異色作

●シーズン13「鮎川教授最後の授業」

放送日:2015年2月11日
脚本:輿水泰弘
犯人役:石野真子

本作は正義ではなく”倫理を問う”異色作である。

元東大教授である鮎川が優秀な教え子数名を招き古希パーティーを開催し右京と社も出席するも、そこで薬を盛られ監禁されてしまう。鮎川は彼等に猟銃を向けながら「”何故人を殺してはいけないのか”説明せよ」という試験を受けさせる。

鮎川は趣味の狩猟で動物を殺していった結果、鮎川は人を殺したいという衝動が抑えられなくなり、教え子達に先の質問の回答を求める為に招いたのである。右京を含めて試験の結果は全員不合格、決心がついた鮎川は手始めに家政婦である御堂黎子に猟銃を向ける。

しかし黎子は鮎川が正気の頃に預かっていた小型拳銃で、逆に鮎川を殺害する。完全なる正当防衛だが、右京は鮎川について再度調べなおす。その結果黎子は鮎川が認知していなかった娘であった事を突き止める。

黎子は母を苦労させた鮎川を恨んでおり、殺す為に家政婦として近付いていた。だが、鮎川が優しく接してくれた事で殺す覚悟が決まらないまま時間だけが経ち、その中で鮎川は黎子が実娘である事や彼女が自分を殺す為に近付いてきた事を知ってしまう。

鮎川は毒物保管庫の鍵や小型拳銃を渡すなど、贖罪の為に彼女に殺されようと努力する。だがそれでも黎子は殺害に踏み切れず、そこで鮎川は今回の事件を計画して彼女に自分を殺させようとしたのである。

全てを明らかにした右京は黎子へ尋ねる。

「貴方はここで撃てば”殺される”と思い引き金を引きましたか?それともここで撃てば”殺せる”と思い引き金を引きましたか?前者なら正当防衛、後者なら紛れもない殺人です」

黎子は殺意を認め、殺人容疑で送検される。

本作は第41回放送文化基金賞の最優秀賞を受賞しているが、その肩書に恥じない名作だと言える。物語のラストで社が右京に対して「彼女は杉下さんの追及で、”その瞬間に殺意があった”と気づいたという気になってしまったのではないでしょうか?」このような疑問を投げかけている。

これが真実なのであれば黎子の逮捕は”杉下右京が生み出した完全な冤罪”に他ならない。人を殺してはいけない理由は何故かという問いだけに留まらず、殺意という目に見えないものに対して右京が徹底的に追及する姿には恐ろしさすら感じる。正しいのは右京かもしれないが、何が正解なのかこの作品は視聴者に問いかけてくる。

最後に、歴代相棒は全員好きではあるが、個人的にはその中でも甲斐享が特別好きだ。未熟な若者が特命係で様々な事件を通して警察官としても人間としても成長するのが好きだ。

またそんな彼を杉下右京始めとしたレギュラー陣が厳しくも暖かく育てていくのが好きだ。恋人の悦子を通して父である峯秋とも徐々に和解をしていくという人間ドラマも好きだ。

最終的に彼は間違った道を進み逮捕されてしまうが、支えてくれる父兄や相棒…何より待ち続ける妻子もいる。私自身もファンの一人として彼の再登場を待ち続けたいと思う。

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