トラウマ級の名演…日本映画史上”最高の悪役”で評価上げた俳優(3)最悪のいじめ…残虐な少年を熱演したのは?
映画には実に様々なキャラクターが登場する。その中にはいい人ばかりではなく、悪役も存在し、そして観客はいつの間にか悪役に感情移入していたりするものだ。今回は日本映画史で最も記憶に残る悪役5人をセレクト。作品の内容に加え、悪役を演じた5人の役者の魅力も解説。映画史上に残る「嫌な奴ら」を紹介していく。(文:村松健太郎)
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中高生のいじめがこれほどの解像度で描かれたことはなかった
『リリイ・シュシュのすべて』(2001)忍成修吾
監督・脚本:岩井俊二
出演:市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩、大沢たかお、稲森いずみ
【作品内容】
中学2年生の雄一(市原隼人)は、かつては親友だった星野(忍成修吾)から過酷ないじめを受けていた。そんな彼の唯一の心の救いは正体不明の歌姫リリイ・シュシュの歌声だった。
【注目ポイント】
市原隼人、忍成修吾、伊藤歩、蒼井優が若き日に集結した青春映画。それまで『Love Letter』(1995)や『スワロウテイル』(1996)などファンタジックな作品が続いていた岩井俊人監督。そんな岩井監督がハードかつリアルな物語を描き上げて、公開当時は驚きをもって迎えられた。
監督自身“遺作にしたい”と言い切った本作はそれまでとは違った作風であったものの高い評価を受けた。特にそれまで“岩井ワールド”に対して批判的だった評論家筋も高く評価したのが印象的だった。
原作に当たる小説が当時としては最新のプラットフォームだったインターネット掲示板での書込みを取り込んだものだったことも注目を集めた。物語は親友関係にあった男子が、あることをきっかけに過酷ないじめをする側と受ける側に転じるまでを描く。いじめに巻き込まれる女子中学生に伊藤歩や蒼井優がキャスティングされた。
いじめッ子のボスとなる忍成修吾演じる星野の冷たい演技は強烈だった。映画の前半では主人公・雄一の良き友として登場した星野。しかし、他人から奪った金を元手に決行した夏休みの沖縄旅行で波に飲み込まれ、心肺停止状態に陥った経験をきっかけに、新学期が始まると冷酷な人格に様変わり。
それまでクラスを牛耳っていた不良生徒を卑怯な手で打ちのめすと、次第に魔の手を雄一や蒼井優扮する津田詩織に伸ばし、後者には売春を強要し、挙句の果てに自殺に追い込む。
日本映画の長い歴史の中でも、中高生のいじめがこれほどの解像度で描かれたことはなかった。いじめっ子を演じる忍成は線が細く、一見弱々しいが、その分、行為の残虐性を際立たせており、キャスティングの妙が光る。
ちなみに、星野を演じた忍成修吾の線が細く、口数が少なく、儚い雰囲気をまとった佇まいは、キャラクターの内面は異なれど、『Love Letter』の柏原崇、『四月物語』(1998)の田辺誠一、さらには『花とアリス』(2004)の郭智博に通じるものがあり、岩井俊二作品に登場する典型的な男性像を体現している。
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