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映画史上最も救いのないラストは? 最悪の結末を迎える洋画(2)殺人鬼がカメラ目線で…胸糞映画の金字塔は?

text by 市川ノン

残酷、理不尽、悲劇…。後味の悪いエンディングを迎える映画が、我々に与えてくれるものはなんだろうか? 刺激や教訓はあれど、できることなら救われてほしいと願ってしまう。しかし一方で、バッドエンドの映画に魅了されてしまうのも人の性。そこで今回は、史上最も残酷な結末を迎える海外映画を、5本セレクトして紹介する。(文・市川ノン)

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お約束の展開を無視した残酷なラスト

『ファニーゲーム』(1997)

映画『ファニーゲーム』イラスト:naomi.k
映画ファニーゲームイラストnaomik

監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:スザンヌ・ロタール、ウルリッヒ・ミューエ

【作品内容】

とある夏の日。大学教授のゲオルグ(ウルリッヒ・ミューエ)と妻のアンナ(スザンヌ・ロタール)は、10歳にも満たない息子を連れて、オーストリアの別荘に向かう。別荘に到着すると、アンナは隣家のベリンガー夫妻に挨拶を送るが、そっけない態度をとられてしまう。

さらに、別荘付近には見知らぬ青年が2人おり、ゲオルグとアンナは不気味に思うのだった。「きっとあの青年たちはベリンガー夫妻の親戚だろう」それがゲオルグとアンナの見立てだ。ゲオルグは青年たちと挨拶を交わし、黒髪の青年がパウル、茶髪の青年がペーターという名であることを知る。

しかし、不吉な雰囲気を感じ取ったのか、ゲオルグ家の飼い犬は別荘に到着して以降、しきりに吠え続けていた…。

【注目ポイント】

この映画は結末だけではなく、全編を通して残酷であり、終始不気味だ。謎の2人組であるパウルとペーターは、被害者である家族はおろか、お互いでも終始話が噛み合っていないように見える。2人は理性を欠いた、純然たる殺戮マシーンなのだ。

死を賭けたゲームを行うという彼らの提案を、全力で拒否する夫婦だが、情けがかけられることはない。結果、家族は1人ずつ殺されていくのだが、死の瞬間をあえて観客に見せない演出も作品の不気味さを増加させることに一役買っている。

とはいえ、残酷なシーンを見せないことで観客の想像力を刺激する演出は珍しいものではない。ミヒャエル・ハネケが本作でみせる真に過激な演出とは、殺人鬼が観客に向かって「君らも彼らに生きてほしいんだろ?」という具合に語りかける描写にほかならない。我々観客は彼らによって「殺人の傍観者」にされてしまうのだ。

パウルは終盤「虚構も現実だ」とペーターに話す。何度も観客に呼びかけてきた彼によるこのセリフは、映画と現実の境界線を薄める。筆者がこのセリフから受け取ったのは「このような残酷極まりない人間は、映画の中だけに存在するわけではない」というメッセージだ。

物語のラスト。あっけなく女を船から湖へ突き落としたパウルは「腹が減った」と言って、近隣の別荘に向かう。彼は序盤のシーンを繰り返すように「卵をください」と家に上がり込む。

そして、不敵な表情でじっとカメラを見つめ、作品は終わるのだ。まるで「次はお前だ」と言わんばかりのラストカットに、観客は最悪な余韻を覚えるのである。

男たちの動機や正体は最後までわからない。ただひたすら陰惨な暴力が続く救いのない映画が『ファニーゲーム』だ。ファイナルガールという映画のお約束が無効化されているという点も、「虚構も現実」というセリフの不気味さを際立たせてならない。

(文・市川ノン)

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