悲惨すぎる…実在した最悪の事故がモデルの邦画(5)事実と異なる展開に疑問も…“日本終了”の危機を描いた力作
交通事故に航空機事故、そして原発事故―。これまで数々の大惨事が日本列島を揺るがしてきた。一方で、歴史に残る事故は、たびたび映画の題材となり、観客にカタルシスをもたらしてきたのも紛れもない事実だ。今回は国内で起きた事故をテーマにした映画を5本セレクト。映画の見どころに加えて、史実も解説する。(文:編集部)
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主人公たちの勇気に涙…。
日本を襲った未曽有の危機に立ち向かうヒーローたち
『Fukushima 50』(2020)
上映時間:122分
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
出演:佐藤浩市、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、佐野史郎、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、安田成美、渡辺謙
【作品内容】
2011年3月11日14時46分、マグニチュード9.0という超巨大地震が宮城沖で発生。巨大津波が太平洋沿岸を襲った。これにより、福島第一原発は全電源を喪失し、ステーション・ブラック・アウト(SBO)状態に陥ってしまう。このままでは原子炉が暴走し炉心溶融(メルトダウン)が起きかねない-。そう直感した1・2号機当直長の伊崎利夫や所長の吉田昌郎らは、原発に残り、現場の状況を把握できない東京電力本社や首相官邸に反発しながらも、クライシスを食い止めるべく奔走する。しかし状況は悪化の一途をたどり、ついには近隣住民に避難指示が出てしまう-。
【事件・作品概要】
人類の発明史上、原子力技術ほど矛盾のあるテクノロジーもそうないだろう。発電や船の動力に用いられているこのテクノロジーは、わずかな燃料から膨大なエネルギーを安定的に供給することができる。しかし、ひとたび暴走すると、数十年、場合によっては数百年単位で土地に禍根を残す。現に、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故では、事故から10年以上経った今でも廃炉作業が行われており、一部地域では未だに避難指示が続いている。
『Fukushima 50』は、そんな福島第一原発事故に挑んだ原発作業員たちの「戦い」を描いた作品。原作はノンフィクション作家・門田隆将による『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』で、監督は『沈まぬ太陽』(2009)の若松節朗。キャストには、佐藤浩市、吉岡秀隆、渡辺謙、佐野史郎ら実力派が名を連ねている。
タイトルの「Fukushima 50」とは、震災時に原発に勤務していた人員のうち、地震発生後も残り続けた50名の作業員に対して、国外メディアが与えた呼称のことで、ヨーロッパでは当時、ヒーローとして称賛され、2011年9月にはスペイン皇太子賞(アストゥリアス皇太子賞)の栄誉に浴している。作中ではこのタイトルに「50歳以上の作業員が死地に向かう」という意味が重ねられており、日本を救わんと行動する熱い男たちの戦いが実にヒロイックに描かれている。
とはいえ本作、批評家筋からの評判は芳しくない。特に問題視されがちなのは「内閣総理大臣」の描写だ。作中では、「内閣総理大臣が現地に向かったために事故対応が遅れて被害が拡大した」という内容が描かれているが、これは史実と大きく異なっている。加えて、この役を演じる佐野史郎の演技も、ヒロイックな伊崎のそれとはまるで対照的なヒステリックなもので、時の首相である菅直人を明らかにおとしめるものだ。
ただ、ここで忘れてはならないのが、本作があくまで震災をテーマとした「娯楽作」であり、日常では感じられないドキドキ感やスッキリ感が得られればそれでOKということだ。現に本作、エンターテインメント作品としては文句なしの出来に仕上がっている。もし本格的なドキュメンタリー作品がご所望であれば、本作と同じ原作から制作されたNetflix映画『THE DAYS』をおすすめしたい。
(文:編集部)
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