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ツウが厳選…心にズシリとくる邦画の傑作は? 日本の闇映画(5)原作は主人公死亡で最悪ラスト…実写版の結末は

text by 阿部早苗

テレビをつければ、差別、貧困、虐待にまつわる話題は事欠かない。しかし、ニュースが報じるのは事象のごく一部のみ。社会問題の根っこにフォーカスし、可視化すること。それは映画が果たすべき重要な役割の1つだろう。今回は、日本社会が抱える暗部に鋭くメスを入れた近年の傑作を、5本セレクトして紹介する。(文・阿部早苗)

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【著者プロフィール:阿部早苗】

神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAOトレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。

ネグレクト家庭を前に葛藤する水道局員を生田斗真が好演

『渇水』(2023)

生田斗真
生田斗真Getty Images

上映時間:100分
監督:高橋正弥
原作:河林満
脚本:及川章太郎
キャスト:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山崎七海、柚穂、宮藤官九郎、宮世琉弥 尾野真千子

【作品内容】

 水道局員の岩切(生田斗真)は、料金を滞納している貧困家庭を訪問し、停水執行の業務を行っていた。そんな中、滞納金を全く支払う気のないシングルマザーの家庭でネグレクトに苦しむ姉妹と出会う。

【注目ポイント】

『凶悪』(2013)、『孤狼の血』シリーズ(2018~)、『死刑にいたる病』(2022)の白石和彌監督が初めてプロデュースを担当し、助監督としてキャリアを積んできた高橋正弥監督がメガホンを取った作品。主人公・岩切役を生田斗真、岩切の同僚を磯村勇斗、姉妹の母を門脇麦が演じ、岩切の妻役には尾野真千子がキャスティングされている。

 ライフラインの中でも欠かせない水道水。水道局員として様々な家庭を訪ねてまわる岩切が直面するのは、母親の育児放棄によって苦境を強いられている姉妹の他にも、高齢者世帯、独身世代など、それぞれバックボーンを異にする貧困層の人々だ。

 その中で、シングルマザーの有希(門脇麦)は滞納金を支払う気がない。2度目の訪問で岩切は、幼い姉妹しかいない状況から事情を察し、停水前、子供たちに水を容器などに貯めるように促す。しかし、数日後には底をつき、水が足りなくなった子供たちは夜の公園に水を汲みに行き、やがて万引きまで犯してしまう。

 母親の身勝手さに憤る岩切だったが、彼もまた姉妹と似たような境遇で育っていたことが明らかになる。息子とのかかわり方に不安を覚え、妻とも調和がとれずに別居をしていた彼の心は姉妹の母親に核心を突かれたことによって変化を見せはじめる。

 児童虐待の中でも、ネグレクトは周囲から気づかれにくく、子供の年齢が高いほど自ら助けを求める行動に移さないことが多いという。本作は、姉妹が児童養護施設に入るシーンで幕を閉じる。ハッピーエンドとは言い切れないものの、観る者がホッと胸をなでおろすラストだ。

 ちなみに小説家・河林満による原作のラストは映画版とは異なるもので、姉妹が苦悩の末、電車に飛び込んで終わるバッドエンドとなっている。

 原作では、姉妹の選択が読者を絶望の淵に叩き落とすが、映画版では毒親から引き離されて施設に入る姉妹を描くことで希望を残す。原作は30年以上前の作品だが、現代でもネグレクトや貧困問題はなくならないどころか増え続けている。今から30年後の未来、果たしてこれらの問題は改善されているのか。明るい未来を望まずにはいられない作品となっている。

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