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実話を基にした“泣ける邦画”の決定版は? 心震える感動作(3)親子の絆に号泣…基になった名エッセイとは?

text by 阿部早苗

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、現実に起きた出来事は、時に、精巧に作られたフィクションよりも深い感動をもたらし、観客の胸を打つ。今回は、実話を基にした心が温まる日本映画を5本セレクト。疲れた心にそっと寄り添ってくれる、珠玉の作品をセレクトした。(文・阿部早苗)

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思春期の息子と父との絆を描いた感動作

『461個のおべんとう』(2020)

道枝駿佑
道枝駿佑Getty Images

上映時間:119分
監督:兼重淳
脚本:清水匡、兼重淳
原作:渡辺俊美「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」
出演者:井ノ原快彦、道枝駿佑、森七菜、若林時英、工藤遥、阿部純子、野間口徹、映美くらら、KREVA、やついいちろう、坂井真紀、倍賞千恵子

【作品内容】

 長年連れ添った妻と離婚した一樹(井ノ原快彦)は、15歳の息子・虹輝(道枝駿佑)と暮らすことになった。一度は高校受験に失敗した虹輝はその後、見事合格。これを機に父と息子の3年間に及ぶ葛藤と和解が描かれていく。

【注目ポイント】

 メガホンをとったのは、是枝裕和監督をはじめとする多くの作品で助監督を務め、現在はテレビドラマやMVの演出など幅広いジャンルで活躍する兼重淳監督。音楽ユニット「TOKYO No.1SOUL SET」の渡辺俊美が、高校生の息子のために3年間お弁当を作り続けた実体験を綴ったエッセイを原作に、父と息子の絆を描いた作品だ。

 父親役に元V6の井ノ原快彦、息子役に“なにわ男子”の道枝駿佑を配した本作。現役アイドルの親子役はキャスティングとして珍しいが、ともに黒縁メガネを身に着けた2人は、まるで本当の親子に見え、物語への没入を妨げることはない。

 ミュージシャンをしている一樹(井ノ原快彦)は、長年連れ添った妻と離婚。一人息子の虹輝(道枝駿佑)は、父親と暮らすことを選ぶ。その後、高校受験に失敗し、1年遅れで高校入学を果たした虹輝は、高校生活のお昼に父親の手作り弁当を熱望する。そんな息子に、一樹は3年間休まず弁当を作ることを約束し、虹輝は3年間休まず学校に通うことを約束する。

 ミュージシャンの一樹は、飲み会や早朝からの仕事、ライブの遠征があっても必ず帰宅し弁当を作る。さらに、一樹の弁当づくりは「1 調理の時間は40分以内」「2 1食にかける値段は300円以内」「3 おかずは材料から作る」という“こだわり3カ条”に基づいており、手抜かりは一切ない。

 一方、一年遅れで高校に入学した虹輝は、一つ下のクラスメイトに距離を置かれ、初恋も上手くいかない。ミュージシャンである父親に対してコンプレックス抱いているという、多感な思春期真っただ中だ。

 そんな思春期に直面している息子と父親のやり取りは、同じ年頃の子供を持つ親には切実に感じるだろう。

 虹輝は「上手くいくと思えば、全部上手くいく」と、常にポジティブ思考の父親を理解できない。さらに、初恋が上手くいかない上に父親と離婚した母親が公私ともに順調な生活を送る様子を目撃してしまい、複雑な感情を抱く。自暴自棄となった息子だが、父親との、手作り弁当を介した交流によって、徐々に前を向く力を得ていく。

 思春期という難しい時期は、子に面と向かって言っても伝わらないことが多い。そんな状況の中でも、手作りのお弁当という存在は親が子供に無言で伝えられる愛情なのかもしれない。

 決してドラマチックな出来事が描かれるわけではないが、終始、心を温かくしながら観られるのは、物語が実話に基づいているからだろう。本作を気に入った方は、基となったエッセイを読んでみてはいかがだろうか。

(文・阿部早苗)

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