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実話を基にした“泣ける邦画”の決定版は? 心震える感動作(5)涙で画面が見れない…奇跡を描いた近年の傑作

text by 阿部早苗

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、現実に起きた出来事は、時に、精巧に作られたフィクションよりも深い感動をもたらし、観客の胸を打つ。今回は、実話を基にした心が温まる日本映画を5本セレクト。疲れた心にそっと寄り添ってくれる、珠玉の作品をセレクトした。(文・阿部早苗)

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娘の命を救うため立ち上がる父と家族の物語

『ディア・ファミリー』(2024)

大泉洋
大泉洋Getty Images

上映時間:116分
監督:月川翔
脚本:林民夫
原作:清武英利「アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録」
出演者:大泉洋、菅野美穂、福本莉子、新井美羽、上杉柊平、徳永えり、満島真之介、戸田菜穂、川栄李奈、有村架純、松村北斗、光石研

【作品内容】

 小さな工場を経営する坪井宣政(大泉洋)とその妻・陽子(菅野美穂)は、生まれつき心臓疾患を抱える娘の佳美(福本莉子)が余命10年と宣告される。絶望の最中、宣政は娘のために人工心臓を作ることを決意する。

【注目ポイント】

 世界で17万人の命を救った心臓の働きを助ける補助循環法の1つIABPバルーンカテーテルの誕生秘話を描いた本作。ノンフィクション作家・清武英利による小説「アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録」を原作に、映画『君に膵臓を食べたい』(2017)『君は月夜に光り輝く』(2019)で生死にまつわる切ない恋模様を手がけた月川翔監督が家族愛に挑んだ作品だ。

 こちらの作品、医療機器メーカー「東海メディカルプロダクツ」会長・筒井宣政の半生がモデルとなっている。

 人工心臓の実用化まで30年と言われる中で、娘の命のタイムリミットは10年。それでは間に合わない、ならば3倍頑張ればいいと考える宣政に対して研究医たちの考えは否定的だ。それでも彼は心臓に関する勉強を熱心に行い、必要とされる高価な器具を準備するなど最善を尽くす。そして夫が失敗しても「次はどうする?」と誰よりも前向きな妻は、娘たちへ愛情を注ぐことも忘れない。そんな両親を見て育った三姉妹の絆も強い。

 結局、人工心臓は断念することになるが、宣政は心臓に関する知識を生かして多くの命を助けて欲しいと願う娘・佳美との約束を果たすため、IABPバルーンカテーテルの開発に奔走する。

 本作で宣政は、開発したバルーンカテーテルが医療現場で使えないという壁にぶち当たってしまう。それでも直向きに努力してきた彼を知る医師の協力によって壁を乗り越える。終盤では、宣政の努力を惜しまない姿勢に心動かされた周囲から救いの手が差し伸べられ、スクリーンは優しさで満たされることになる。

 大泉洋のどこまでも諦めない父親と、夫を陰から支える妻を演じた菅野美穂の息の合った夫婦に加え、福本莉子、川栄李奈、新井美羽が演じた三姉妹の演技にも目を奪われる。諦めない家族の深い絆に心震える作品だ。

(文・阿部早苗)

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