最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(5)暴力が異様に美しい…実話を基にした名作は?
マキノ雅弘から北野武まで、長い歴史を誇るヤクザ映画。1970年代に東映が展開した“実録路線”は社会現象を巻き起こし、その後のVシネマに至るまで、形を変えて多くの名作が映画史を彩ってきた。 今回はノンフィクションに材をとったヤクザ映画を中心に名作をセレクト。場面のディテールと共に紹介する。(文・ 村松健太郎)
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『極道の妻たち』(1986)
監督:五社英雄
脚本:高田宏治
原作:家田荘子
出演:岩下志麻、かたせ梨乃、世良公則、成田三樹夫、藤間紫
【作品内容】
服役中の粟津組組長の妻・環(岩下志麻)は、夫の帰りを待ちながら、組を守っていた。そんな中、親組織の総長が亡くなったことにより、跡継ぎをめぐって抗争が勃発。男たちの身勝手な戦いに、極道の妻たちも巻き込まれていく…。
【注目ポイント】
『鬼龍院花子の生涯』(1982)や藤純子主演の任侠映画など先行作品がなかったわけではないものの、当時としても異色と言える女性目線からヤクザの世界を描いた映画だ。
実録路線の後を継ぐ形で東映主導で製作され大ヒット。「極妻(ごくつま)」の通称でシリーズ展開されてシリーズ化され、主演の岩下志麻の自他共に認める代表作となった。
女性目線というのも異色なら、原作になったルポルタージュが女性作家の家田荘子によるものだったのも異色だった。
実録路線を経ての製作ということもあって、一般社会も巻き込んだ暴力描写は健在となっている。また戦後の混乱期を舞台にしていた実録路線とは違い、ヤクザの営利活動を表に出す描写が非常に現代的で、本作以降のヤクザ映画の1つの指針になったと言えるだろう。
劇中で描かれる事柄の一部は実際に起きた組織の抗争をモデルにしているため、その筋に詳しい方なら、誰が何の役を演じているかが一目でわかるようになっている。
ちなみに原作のタイトルは「ごくどうのつまたち」と読み、映画では「ごくどうのおんなたち」と、読み方が異なっている。
銃撃シーンが多い本作。ゆえに突発性はあっても痛みが伝わるシーンは少ない、ある種様式美のような暴力シーンが続く中で、突如起きるのがクライマックスの、かたせ梨乃と世良公則の激しい濡れ場からの乱闘シーンだ。
清水宏次朗演じるチンピラによる襲撃は流血沙汰を引き起こす。かたせ梨乃は岩下志麻と並んでシリーズの顔になるのだが、その通行手形とも言うべきシーンだろう。
(文・村松健太郎)
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