日本映画史上、最も切ないラストは? 苦すぎる結末の邦画(3)ボロアパートで孤独死…やるせない最期に呆然自失
text by シモ
ギリシャの哲学者アリストテレスは、魂を浄化する「カタルシス」の条件として、「怖れ」と「憐れみ」の感情が必要だと述べている。つまり、精神の浄化には、ハッピーな展開ではなく、バッドな展開を観ることが必須なのだ。そこで今回は、ほろ苦い結末を迎える日本映画5本をセレクト。心を浄化してくれる作品を紹介する。第3回。(文・シモ)
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『すばらしき世界』(2020)
原作:佐木隆三
監督:西川美和
脚本:西川美和
出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功
【作品内容】
殺人を犯し服役していた元やくざの三上正夫(役所広司)は、13年の刑期を終えて出所する。ある日、生き別れた母を探す三上の前に、テレビディレクターで作家志望の津乃田(仲野太賀)とプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)が現れる。
2人は、現実社会と折り合いをつけながら生きる三上の姿を題材に、感動的なドキュメンタリーを作ろうとするが…。
【注目ポイント】
本作は直木賞作家佐木隆三の小説『身分帳』を原案にした社会派ドラマ。監督を『ゆれる』(2006)などで知られる西川美和が務め、主演を役所広司が務める。
長い刑期から解放されてあてがわれたアパートで、新たにやり直そうともがく三上。ハローワークや免許更新所でも偏見の目を向けられ、挙句の果てには万引き犯に間違われる。
まっとうな生活がしたいだけ―。そんな思いからかつての兄弟分を頼るも、そこで待ち受けていたのは、元ヤクザが直面する過酷な現実だった。
終盤、出所した三上は、身元引受人の温かさに涙を流し、小さなアパートの一室で孤独に最期を迎える。彼は、「死」によってようやく苦しみから解放されたのだ。
そしてラスト。津乃田は、三上の最期の姿を目の当たりにして慟哭する。それは、はぐれものを排除する社会への怒りの叫びでもあるのだ。心の奥に、何とも言えないほろ苦さを残すラストシーンだ。
(文・シモ)
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