実在の事件に影響を与えた“本当に怖い映画”(1)ヤバすぎて上映中止に…模倣犯が続出した世紀の問題作は?
誰にでも人生に影響を及ぼした映画があるのではないだろうか。そんな作品に出会えたことは幸運だ。しかし、衝撃作には副作用があることを理解しておかなくてはならない。そこで今回は、世間に悪影響を与えた映画を5本セレクト。映画に感化されて起きた事件の内容とともに紹介する。第1回。(文・阿部早苗)
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イギリスで上映中止となるほどの影響力
『時計じかけのオレンジ』(1971)
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック
原作:アンソニー・バージェス
出演:マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ
【作品内容】
近未来を舞台に、犯罪を繰り返していたアレックスは逮捕後、ルドヴィコ療法によって暴力行為が出来ない状態となる。出所後、危害を加えた人たちから報復を受ける彼はかつて襲撃した作家の家に助けを求めるが…。
【注目ポイント】
20世紀を代表する名監督・スタンリー・キューブリックが手がけた本作は、イギリスの作家アンソニー・バージェスによる同名小説を原作に、暴力と人間の自由意志を問いかけ観る者に強烈な印象を与える、ディストピア映画の傑作だ。
舞台は未来のイギリス。暴力的な若者アレックス(マルコム・マクダウェル)率いる不良集団「ドルーグ」の面々は、無軌道な暴力や性犯罪に溺れる日々を送っていた。
その後、仲間の裏切りによって逮捕されたアレックスは、「ルドヴィコ療法」の被験者になることで社会に戻ることを許される。この治療によって暴力を生理的に嫌悪するようになったアレックスの行く末を描くのだが、問題はアレックスが捕まる前の序盤から中盤にかけてのシーンの数々である。
序盤から主人公・アレックスと「ドルーグ」のメンバーが理由なき暴力を振るうシーンが何度も描かれる。衝撃的なレイプシーンもさることながら、より印象的なのがホームレスの男性に対して無差別に暴行を加える場面である。アレックスをはじめとした若者らは笑いながら男性を殴り倒す。そこには良心のかけらも見出せない。
本作の内容が一部の人々に悪影響を与えたことはつとに有名だ。本作公開後、若者たちがホームレスの男性に暴行を振るい殺害に及ぶ、といった映画の生き写しのような事件が発生。犯行に及んだ若者たちは『時計じかけのオレンジ』を崇拝しており、「映画や小説の中で描かれるアレックスの行動を模倣した」と供述し、世間を震撼させた。
『時計じかけのオレンジ』を模倣した犯罪は後を絶たず、批判が高まるなか、1973年にはキューブリック自身が脅迫を受け、イギリスでの上映が中止される事態となった。
優れた芸術は観る者の人生観を変える…とはよく言うが、映画『時計じかけのオレンジ』が引き起こした騒動は、芸術が与える影響は善良なものに限らないということを思い知らせる、打ってつけの例だと言えるだろう。
(文・阿部早苗)
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