「自分じゃなくなる瞬間がお芝居の魅力」映画『世界征服やめた』藤堂日向インタビュー。撮影の裏側と監督・北村匠海について

text by 福田桃奈

北村匠海の監督デビュー作となる短編映画『世界征服やめた』が現在公開中だ。本作は、2011年に不遇の事故でこの世を去ったポエトリーラッパー・不可思議/wonderboyの同名楽曲に影響を受けた北村自身がメガホンをとった作品。今回は本作に出演の藤堂日向さんにインタビューを敢行。撮影の裏側や、お芝居の魅力を語っていただいた。(取材・文:福田桃奈)

「心の奥底の見えない部分まで掬い取って言葉にしてくれた」

藤堂日向 写真:大島風穂
藤堂日向 写真:大島風穂

ーーーとてもメッセージ性があり、登場人物の言葉一つ一つがグサグサと刺さりました。藤堂さんは本作への出演が決まる前に、北村さんからこの楽曲を渡されたそうですね。その時は映画の出演のことは知らなかったそうですが、聴いてみていかがでしたか?

「人生というものを感じて凄く切なかったんですね。それにこんなにも寄り添ってくれる曲があるということに驚きましたし、勧めてくれた匠海に感謝しました。今聞けて良かったなと」

ーーーその後、北村さんから直接出演のオファーをされたそうですが、その時はどんな気持ちでしたか?

「『日向で映画を撮りたい』って言われたんですけど最初は冗談だと思って。それは匠海がそういう人物だからというわけではなく、単純にこんな素晴らしい機会に恵まれていいのかという気持ちが大きくて、その後正式にオファーされてやっと実感することができました」

ーーー台本を読んだ感想はいかがでしたか?

「本当に寄り添ってくれる作品だなと思いました。当て書きと聞いていたのですが、彼は僕が辛い時に支えてくれた友人の1人でもあり、台本では心の奥底の見えない部分まで掬い取って言葉にしてくれていたので、読んだ時は共感しまくりでした」

ーーー藤堂さんが演じられた役は、主人公の同僚という立ち位置ですが、私には主人公のもう1人の自分のように感じました。どのように役を捉えて役作りをされましたか。

「最初はどういう役なのか掴みづらかったですね。匠海からは、“陽の存在”でいて欲しいことと、息をして生きて欲しいと言われました。あとは、悲しさや悔しさや寂しさや苦悩を全部ひっくるめて“涼しさを帯びて欲しい”とも言われました。端的に分かりやすいキーワードを投げかけてくれたので、それを頼りにセリフに一つ一つ当てはめていきました」

ーーーそれは現場でお芝居をする中で、感覚に落とし込んでいったのでしょうか?

「色んなパターンを大量に考えてはいたんです。でもテストがなかったので、それを試せる場所がなかったのですが、主人公の彼方を演じた萩原利久くんとお芝居をすると引き出されるんですよね。演じるって結局は嘘じゃないですか。でも彼は一切飾らないし、演技にも嘘がない方なので、自分の中で考えてきたストックが出しやすいんです。凄い俳優だなと思いました」

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