史上最も「スゴい脚本」の映画は? 識者が選ぶ名作ベスト5選。映画の命はストーリー…天才たちの素晴らしい作劇術を解説
世の中には名作と呼ばれる作品が多く存在する。そんな名作が生まれるには、もちろんキャスティングや俳優の演技力、監督の演出などあらゆる要素が組み合わさることで誕生するものだが、やはりその中でも脚本は命だ。今回は、素晴らしい脚本の映画を5本紹介。その凄さを徹底解明する。(文・ニコ・トスカーニ)
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セリフとト書きのバランスが絶妙な「映画の教科書」
『ショーシャンクの空に』(1994)
監督:フランク・ダラボン
脚本:フランク・ダラボン
原作:スティーブン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」
出演者:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン、ボブ・ガントン、ウィリアム・サドラー、クランシー・ブラウン、ギル・ベローズ、ジェームズ・ホイットモア
【作品内容】
妻とその愛人を殺した疑いで終身刑となった銀行員のアンディ(ティム・ロビンス)は、免罪を訴えるも、劣悪なショーシャンク刑務所へ服役が決まる。
アンディは銀行員として働いてきた知識を活かし、刑務官の税務処理や資産運用を担うようになる。そうして20年の月日が流れ、事件の真相を知る青年と出会うが…。
【注目ポイント】
『ショーシャンクの空に』は、正攻法な脚色のお手本のような例である。原作小説のプロットをほぼいじらず、細部を変更し、オリジナルのシーンを足すことでより劇的で引き締まった物語を作り出している。また、小説では味になり得るテンポの悪さも描写の簡略化により解消している。原作の30年間の物語を映画では20年弱に縮めているが、142分に物語を収める上で合理的な判断だろう。
本作の監督・脚本を務めたフランク・ダラボンは、同じくスティーブン・キング原作の『グリーンマイル』(1999)でも見事な脚色の技をみせ、アカデミー賞候補になった。
現代のアメリカ映画において、小説の脚色という点では、アレクサンダー・ペイン(『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』など)も教科書的な代表例だ。ペインの脚本はセリフのある部分と無い部分のバランスが良く、ウェルメイドな脚本の素晴らしい例と言える。台詞の量がとにかく多いアーロン・ソーキン(『ソーシャル・ネットワーク』など)も個性的で素晴らしいが、脚本を書く上でまず真似をするなら断然ペインだろう。
ちなみに、小説を原作にした映画で原作者みずから脚本を書いた例は多いが、思いのほか成功作は多くない印象だ。今のところアカデミー賞受賞までたどり着いたのは、ウィリアム・ピーター・ブラッティ(『エクソシスト』)、マリオ・プーゾ(『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザー PART II』)、マイケル・ブレイク(『ダンス・ウィズ・ウルブズ』)、ジョン・アーヴィング(『サイダーハウス・ルール』)の4人のみである(ノミネートは他にも何人かいる)。小説の執筆と脚本の執筆は似て非なる技術が必要なのだ。