「今の時代『いいものを作る』だけでは足りない」プロ野球シーズン連動型ドラマ『神様、おねがい』企画・脚本/高崎卓馬、独占インタビュー

text by 山田剛志

横浜DeNAベイスターズの試合結果とドラマの展開がリンクする、未だかつてない縦型ショートドラマ『神様、おねがい』が配信中だ。今回は、企画・脚本を務めるクリエイティブディレクターの高崎卓馬さんにインタビューを敢行。発想の原点から創作の舞台裏まで、余すところなく語ってくれた。(取材・文:山田剛志)

「とんでもないこと言ってしまったな」
新しい形の縦型ショートドラマへの挑戦

ドラマ『神様、おねがい』第6話メイキングカット
ドラマ『神様、おねがい』第6話メイキングカット

ーーー今回『神様、おねがい』という新しい形の野球連動ショートドラマの企画・脚本を手がけられましたが、どのような経緯でこのプロジェクトに参加されたのでしょうか?

「もともと野球が大好きなんです。やる方じゃなく観る専門ですけど。あるとき、この企画の座組にいた方が僕のことを思い出してくださって、『ベイスターズで面白いことをやりたいんだけど、参加しない?』と、突然電話がかかってきたのがきっかけでした」

ーーー当初から“シーズンと連動したドラマ”を作るというアイデアがあったのでしょうか?

「若い、新しいファンを獲得するために、縦型のドラマをというのが最初にありました。とはいえ、普通に野球に関連した、ファンがでてくるだけのドラマを作っても、自分だったら観ないなあ、と思ったんです。作るなら自分が観たいと思うものをというごく自然な気持ちから発想していきました。そんななかで『現実と連動する』というアイデアが浮かんだんです。

おおもとは、昔の伝説的なバラエティ番組の『進め!電波少年』のなかにあった“熱狂的巨人ファン、熱狂的阪神ファン”という企画です。あのアイデアは当時から画期的だと思っていたんです。贔屓の球団が負けた日はご飯が喉を通らないという芸人さんをどこかに閉じ込めて、勝ったらご飯をあげるけど、負けたら「喉を通らないんだから、いらないよね」と。

意地悪な企画ですが、それからゲームの勝敗が妙に気になって。そういうものをいつかやってみたいと思っていたんです。それでやるなら1年、シーズンの流れとリンクしたものにしよう、と。現実とフィクションの境界を曖昧にしたものがつくれるんじゃないかと」

ーーー実際にドラマとシーズンを連動させるのは大変ではないですか?


「めちゃくちゃ大変です(笑)。撮影、編集、仕上げ、キャスティング、ロケ地探し…『自撮りで実況』ならシンプルに作れるかもしれないけれど、ちゃんとドラマとしてやろうとすると想像以上にハードルが高い。やってみて初めて、『とんでもないこと言ってしまったな』と思いました」

ーーー本作の主人公は“ベイスターズが優勝しなければ死んでしまう”という設定です。プロットはどのように構築していったのでしょうか?

「1年かけて見るものなので、見続ける理由を設定の中に持たせないといけないと思ったんです。『主人公が救われるのかどうか』がペナントレースの結果とリンクしている。優勝するかどうかっていう大きな流れにフィクションが絡むことで、より没入できる。第1話でその前提を明確にしておくことで、途中から見ても状況が理解できるようにしています」

ーーーいわゆる推し活に励む主人公ではなく、球場スタッフを主役に据えた点もユニークです。

「ハマスタに取材に行った際、ベイスターズの裏方さんたちの仕事をみていて、とても感動しました。自分が大好きなプロ野球って、こんなふうにたくさんの力で構築されているんだ、と。それにハマスタの魅力も描けると思ったんです。ファンのひとが普段あまり見られないものをカメラで撮れると思いました」

「奇跡を人工的に生む装置」
高崎卓馬が語る野球と横浜DeNAベイスターズの魅力

ドラマ『神様、おねがい』第5話メイキングカット
ドラマ『神様、おねがい』第5話メイキングカット

ーーー“野球にはドラマがある”ということを、以前から感じていたのでしょうか?

「はい。野球の構造そのものがゲームとして完璧すぎていて、神様がつくったものじゃないかと思うことがしばしばあります。運と実力のバランス、ベースの距離、どうしてたった9人であの広い球場を守れて、それでたいていのものをアウトにできるのか。スポーツって『奇跡を人工的に生む装置』なんだと思います。そこにシナリオがないからこそ、その面白さにはフィクションは到底かなわないと感じることが多いです」

ーーー今回のドラマも、野球の魅力を届ける一環だと。

「まさにそうです。『野球よりも面白いドラマを作る』というより『野球の面白さを知ってもらうきっかけを作る』ことが目的でした。スマホ世代が縦型で観るなら、それに合った設計が必要。野球は本来ワイド画面のスポーツですが、ドラマという体裁でまず関心をもってもらう。そんな“入り口”になったらうれしいです」

ーーーベイスターズの球場・ハマスタの魅力についても伺いたいです。

「オープンの野球場には独特の魅力があります。夕方からはじまってビールのみながら一喜一憂していると夜になっていく。あれだけのひとが同じ奇跡を目撃して、同じ体験をする。そのリアルって、本当に今の僕たちにとって大事だと思っています。そういうものがどんどん少なくなって、僕たちは小さな世界にとじこもっていく。野球場には、忘れてはいけないものがぎゅっとつまっています」

ーーーファンのリアルな声を物語に組み込んでおられますね。シナリオを執筆するにあたって取材を重ねられたのでしょうか?

「はい。球団広報の方に案内していただいたり、ファーム施設などがある横須賀にも足を運んで取材をしました。ベイスターズファンって“キャラが立ってる人”が多くて、芸人さんでもユニフォーム着てる人が多い。そういうファン文化も面白いですよね」

ーーーベイスターズのどんなところに惹かれますか?

「“火がついたら止まらない”ところですね。打線の波とか、全体の流れを作る選手がちゃんといて、しかも若々しくて自由な雰囲気がある。新しい試みにも前向きで、球団そのものがオープンマインドだなと感じます。そもそもこういうペナントレースと連動した企画、なんて他の球団だと受け入れてもらえない気もします」

「仕事のストレスは仕事で発散するタイプ」
創作スタンスについて

ドラマ『神様、おねがい』第6話メイキングカット
ドラマ『神様、おねがい』第6話メイキングカット

ーーー高崎さんは、小説、ドラマ、舞台、映画、CMと実に多様なジャンルで活動されていますが、創作意欲をかき立てるものは何でしょうか?

「自分から何かを伝えたくて作るというよりも、いつも『相談』が始まりにある気がします。何かを相談されて、今の自分にできる一番の方法を考える。そういう縁や運に導かれて少し前の自分が想像もしていなかった場所で何かをやっているというのが好きみたいです。新しい場所にたつと緊張するし、何より謙虚に自分にできることを考えられる。といいつつ得意な分野はやっぱりあるので幅はそんなにないかもしれません。

映画監督になりたいという人と、映画を作りたいという人がいると思いますが、僕は完全に後者タイプです。そのなかで今の自分じゃないとできないものは何かを考えていく。運と縁に流されていくと本当に楽しいんです。属性を自分に与えるとそれに縛られて不自由になるような気がしてしまいます」

ーーークリエイターとして活動し始めた当初、ロールモデルの方はいましたか?

「それぞれの領域にいます。どこへ行っても『この人には到底かなわない』と思わされる存在に何人も出会ってきました。だからこそ、僕は一つのジャンルにとどまらず、フラフラと動いているんだと思います。

広告の世界にも、僕なんかよりはるかにすごい人がたくさんいますし、映画の世界にも同じようにたくさんいます。小説なんて、本当に『箸にも棒にもかからない』という感覚でやっている自覚があります。でも、そんなふうに分野を横断して活動していること自体が、自分の特徴なのかなとも思っていて。

たとえば映画だけをやっている人は、僕が見ているような風景は見えていないはずですし、それは僕にしか持てない視点だと感じています。

もちろん、それぞれの専門領域でひたすら突き詰めているプロフェッショナルの方々をものすごくリスペクトしていますし、本当はそうありたいと思っているんですけど、それだと勝てないから結果的にこんな感じでやっているのかもしれません」

ーーー普段のインプットはどのようにして行っていますか?

「オンオフの境があまりなくて、仕事のストレスは仕事で発散するタイプです。アウトプットが最大のインプット。というか、作ってる中での失敗や試行錯誤が一番の学びになります」

ーーー縦型動画に関しても学びながら試行錯誤されているでしょうか?

「はい。いろんな人に聞いて勉強しています。今って『結論が先にないと見られない』って言われていて、最初に“見る価値”を提示しないといけない。でもそれがテンプレになると、今度は飽きられる。そのバランスを探る毎日です」

「今の時代、『いいものを作る』だけでは足りない」
成功の鍵を握る2つのファクター

ドラマ『神様、おねがい』第5話メイキング
ドラマ『神様、おねがい』第5話メイキング

ーーー高崎さんの言葉は、日々ものづくりや仕事に悩んでいる人にきっと響くと思います。個人的に、高崎さんが共同脚本を務められた2023年公開の映画『PERFECT DAYS』は、とても好きな作品でした。この作品に関わったことで、クリエイターとして、あるいは人として、変化した部分や考え方が変わったことはありましたか?

「あの作品は、すごく日本的なものなのに、世界中の人たちが共感してくれた。僕たちが思っているほど、国や文化の間に大きな壁はないんじゃないかと思います。人間なんだっていう。

人間とは何か、というのを自分のなかで深く追いかけていくと結果的に通じるものになっていく。そのことを経験として学べたのは自分の人生のなかでとてつもなく大きなものでした。

そういうものに出会わせてくれた柳井康治さん、役所広司さん、ヴィム・ヴェンダースさん、あの映画のチームのみんなは僕の宝物です。映画をつくるだけじゃなくて、世界中を映画と一緒に旅できましたから」

ーーー作品を世に送り出したあとの反響から得た影響が大きかったのですね。

「やっている最中は本当にただただ一生懸命で、目の前のことに集中して動いていただけでした。でもこれは持論なんですが、企画はいつも『2度つくる』というイメージでいます。まず、いいものをつくる。そしてそれがいいものだと気づいてもらえる状況をつくる。今回の映画もそのイメージでやりました。

メディアの意味が大きく変わり、そこから何かを受け取るひとの心のありようもどんどん変化している。そこは常に敏感でいないとせっかく頑張って作っても、届かない。あふれるコンテンツのなかで、間違った選択をして、限られた時間を失いたくないという感覚があるのはよくわかります。その気持ちが誰かのレビューを信じすぎるという状況も作ってしまっている気もしますが」

ーーーいわゆる「レビュー病」のような現象ですね。星やコメントがないと、美味しいレストランにも気づけないという。

「気づいてもらえないと、みんなの努力が実らないことになりますから。一緒に作り上げた仲間のためにもそこは企画をする人間としての責任がある。そう思います。でもそのことを考えるのは、社会のことや、人間のことを丁寧に考えるということでもあるので、まわりまわって、いいものをつくるという最初のクリエイティブの段階での筋肉にもなっている気もします」

ーーーそれは、今回の『神様、おねがい』のようなプロジェクトにも通じますか?

「そうですね。今回の企画でも、『面白いものを作る』のと同時に、『それをどう届けるか』がすごく大事でした。たとえばベイスターズのファンや広報の方たちはSNSも含めてとても力強い発信をしてくださるので、ある程度はファンには届く。でもその先、もっと広い層にどう届かせるか。

今回僕が強く意識したのは、『シーズン連動ドラマ』である、という認識をちゃんと作ること。その言葉さえ目にしてもらえれば、観ていない人でも『なんか面白そう』と思ってもらえる可能性がある。それがすごく大事だと思いました」

ーーーその「なんか面白そう」と思ってくれる人をいかに多く生み出すか、がポイントなんですね。

「観た人が面白いと思うものをつくる。観ていないひとが面白そうと思う状況をつくる。このふたつだと思います。今の時代、観ていないひとの存在はとても大きい気がします。観たいという気持ちを持っている人たち、でしょうか。全体を観ていないのにいい悪いをいうひとってとても多いですから」

ーーー本作はシーズン連動型という形式なので、一概には言えないと思うんですけど、今後の『神様、おねがい』の注目ポイントを教えてください。

「優勝したらどうなるか、逆にしなかったらどうなるか、腕の見せどころですが、まだ結末は考えていません(笑)。でもどっちに転んでも『やっぱそう来たか』っていう着地にはしなきゃいけないはずなんで、最後は観る人を驚かせつつも納得させるような展開を考えなければいけないと思っています。

全話通して、リアルタイムで見てくれた人に『ずっと見てきてよかった』って思ってもらえるような結末をなんとかして作らなければいけないと思っています。まだ考えていないんですが、宿題がどんどん大きく膨らんでいっている感覚は、このシーズン連動ドラマというものを考えてしまったから向き合うしかないですね(笑)」

(取材・文:山田剛志)

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【了】

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