スティーブン・キングが「最高の映画」と太鼓判。映画『スタンド・バイ・ミー』はなぜ世代を超えて愛されるのか?
小説家、スティーブン・キングの映画化された作品の中で、どれが最高の作品だったかを尋ねると、その答えは人によって様々だろう。『キャリー』『シャイニング』など、人の心を打つ作品が多くある。今回はスティーブン・キングの作品でもとりわけ、映画『スタンド・バイ・ミー』の人気が高い理由について現地のメディアを参考に解説していく。
誰しも心の中にある悩みや葛藤
少年たちの“リアル”に感情移入してしまう
「スティーブン・キングの作品で、どれが特に好きか」と尋ねられた時に、映画『IT/イット』シリーズ、『キャリー』(1976)、あるいは『ミザリー』(1990)と答える方が多いかもしれない。またはスタンリー・キューブリック監督のファンであるならば、映画『シャイニング』(1980)と即答するかもしれない。
数多くの作品が公開されてきたが、スティーブン・キングの映画化作品の魅力は必ずしも幽霊や、モンスターだけにあるのではない。彼の作品の特徴は何と言ってもその恐怖描写。人々の残酷な部分から、最善を尽くして主人公が生き延びるシーンが多く描かれている。
そんなスティーブン・キングの作品の中でも、映画『スタンド・バイ・ミー』(1968)は、サスペンス的な内容と、少年の冒険、自己の発見を織り交ぜたハートフルな物語として人気の作品だ。
今回は米colliderの記事に基づき、映画『スタンド・バイ・ミー』がスティーブン・キングの映画化作品として中でも人気が高い理由を紹介していく。
映画『スタンド・バイ・ミー』の主人公の子供たちはただの可愛らしい子供達ではない。彼らは時に悪態をつき、口論する、それぞれが心に問題を抱えたキャラクター達だ。そんな少年たちの性格は非常に“リアル”。キャラクター一人ひとりへの感情移入のしやすさがは人気の要因の一つだろう。
映画『スタンド・バイ・ミー』で主人公の少年ゴーディを演じた俳優のウィル・ウィートンは、この映画の成功の理由は、キャスティングにあると考えているようで、2011年のインタビューでは、自分は「内気で不器用」であったと語っている。
また、ウィートンは映画『スタンド・バイ・ミー』で、リーダー格の存在であるクリスを演じた俳優リバー・フェニックスのことを「父親のような存在だ」と言い、撮影の外でもこの2人のキャラクターは同じであったようだ。
映画内のキャラクターと俳優自身の性格の一致は、『スタンド・バイ・ミー』の物語に奥深いリアリティをもたらしている。この作品では、多くの子供たちが私生活で実際に経験するような問題を深く掘り下げており、観客は自身とキャラクターが同じような問題を抱えていると感じ、映画の世界に深く没頭することができる。これは本作のみならず、いわゆる”良い映画”の必要条件の一つであろう。
本作の登場人物の感情は非常にリアルだ。例えば、主人公のゴーディの両親は、亡くなった兄を悼むことに精一杯であり、ゴーディのことを気にかけていない様子が伺える。両親の愛情不足は、ゴーディの心を揺さぶり、クリスに「お父さんに嫌われている」と打ち明け涙するシーンにつながる。その際にゴーディは、家族との絆が失われたと同時に、自分の友人の中に慰めと肯定を見出す。このシーンは誰もが親に恵まれる訳ではないという現実の世界の残酷さを表現している。
それぞれのメンバーが心の葛藤を持っている中、その拠り所のような存在になっているクリスは、父親がアルコール中毒で、兄が不良という複雑な家庭で育っている。そのためか、グループの他のメンバーよりも大人びた存在だ。
しかし彼もまた、皆が寝静まった夜に、学校のミルク代を過去に盗んだことがあるとゴーディに打ち明ける。その後、ミルク代を先生に返すものの、その先生がミルク代を取り、クリスがその罪を被り、停学になったという過去を話す。クリスの年齢に似つかわしくない大人びた性格は、過去のトラウマにより、必要以上に早く大人になることを強いられた末に出来上がったものだ。このシーンはそうした残酷な現実を表している。
同じスティーブン・キング原作の映画『ショーシャンクの空に』は、希望と同時に、閉じ込められ、忘れ去られる恐怖を描いている。一方、『スタンド・バイ・ミー』は、世界が大人だけでなく、子供達にとっても安心できる場所ではないことに気づかされる、ある種のホラーのようなものを描いている。
また、映画『シャイニング』は、キングの作品の中でも成功を収めた作品の1つで、ホラーというジャンルの代名詞とも言える作品だ。しかし、この映画は、キャラクター設定からクライマックスの展開まで、多くの点で原作から大きく逸脱しており、スティーブン・キング自身は、この映画に彼の原作が持っていた「心」や、「個性」がないと嫌悪感を露わにしているようだ。
一方、映画『スタンド・バイ・ミー』はというと、監督であるロブ・ライナーがインタビューで語るところによれば、スティーブン・キングは「私の作品を映画化したものの中で最高の作品だ」と語るほどお気に入りの作品であるようだ。
スティーブン・キングの作品の核となるのは、登場するキャラクターがリアルで、実際に会うことができる人物であると感じられるものである。そのリアルな登場人物のキャラクターと、それぞれの人物のダークな側面の、巧みなマッチにより、公開から40年以上経った今でも多くのファンに愛され続けている素晴らしい映画になっている。
子供時代に抱えていた、誰にも話すことの出来なかった悩みや葛藤は、大人になっても胸の奥底に残っているものだ。懐かしく切ない青春時代の感情を観るたびに思い出させてくれる映画『スタンド・バイ・ミー』は、これからも多くの人々を魅了し続けることだろう。
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