「バカにしやがって!」原作者がブチギレた名作映画5選。絶対に許されない改変…。作者に嫌われてしまった不幸な作品をセレクト
莫大な予算をかけて製作される海外映画。そのクオリティーは素晴らしく、人々の記憶に残る名作として受け継がれていく。しかし作品としての出来は良くても、原作者の意向を無視して激怒させてしまったという危うい作品もある。今回はキャラクターや脚本の大幅な改変、キャスティング問題などが原因で原作者が激怒した海外映画を5本紹介する。(文・寺島武志)
———————————————–
「なんてつまらない映画だ、バカにしやがって!」
あまりの怒りで試写中に急死…!?
『墓にツバをかけろ』(1959)
原題:J’Irai Cracher Sur Vos Tombes
製作国:フランス
原作・脚本:ボリス・ヴィアン
監督:ミシェル・ガスト
キャスト:クリスチャン・マルカン、アントネッラ・ルアルディ、フェルナン・ルドー、ルナート・ウェール、クロード・ベリ
【作品内容】
白人そっくりな見た目だが、黒人のジョー。黒人の見た目をしている弟は、白人の女を犯した疑いをかけられて、殺されてしまう。弟の仇を討ったジョーは、友人の叔父を頼りにトロントへ向かう。そこで富豪の令嬢、リスベートに出会うのだが…。
ジャズ・トランペット奏者としても活躍した作家、ボリス・ヴィアンによる初の長編小説を映画化した作品。
【注目ポイント】
原作者のボリス・ヴィアンは、その他にもジャズ評論家、シャンソン歌手、作詞家、作曲家、劇作家、映画監督、脚本家、俳優、レコード会社のディレクター、画家、美術評論家など、最大20近くにも上る肩書を持っていたとされる。ヴィアンの小説は後年も多く映画化されており、2013年にはミシェル・ゴンドリーが小説『うたかたの日々』を、『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』として映像化している。
同小説は「ヴァーノン・サリヴァン」という米国人風のペンネームで上梓した作品で、米国テネシー州メンフィスを舞台に、黒人の弟をリンチで殺された兄が、白人に復讐する物語で、黒人差別への憎悪を描いている。
ヴァーノン・サリヴァン名義で刊行されたハードボイルド小説の数々は、「金を稼ぐために執筆した」と、後になって本人が告白している。
当初は米国で流行していた小説の翻訳を依頼されたが「翻訳するぐらいなら俺が自分で書く方が手っ取り早い」と、原作を短期間で書き上げ、米国の黒人脱走兵「ヴァーノン・サリヴァン」を名乗って出版させたといういきさつがある。
この小説は、黒人を中心に支持されたが、一方で、暴力表現のあまりの過激さによって裁判沙汰に発展、作品そのものの評価以外の部分で名が売れた。
しかし、裁判に敗訴したヴィアンは、発行部数(10万部)に比例するように、10万フランの罰金を科せられてしまう。加えて、それが原因で妻とも離婚することになる。
その後も本作はある種の呪いとしてヴィアンを破滅させることになる。ヴィアンの過激な作品は、たびたび出版禁止の措置が取られた。ある売春婦の惨殺死体が発見され、その死体の横にこの小説があったことが問題視されたのだ。
1959年に映画化された際、脚本はヴィアン自身が務める予定だったが、プロデューサーの意に沿わず、最終的に、クレジットには名前を残したまま別の脚本に差し替えられた。ヴィアンは不満を口にしながらも試写会に臨んだ。
しかし、なんと試写会の途中にヴィアンは心臓発作に襲われ、そのまま39歳の若さで亡くなってしまったのだ。試写会中に心臓発作を起こしたのは全くの偶然なのだが、まるで本作の呪いを彷彿とさせられる出来事だ。
反抗的なキャラクターで世間を嘲り、そして、自分の作品の呪いによって死に至ったヴィアン。一説では「なんてつまらない映画だ、バカにしやがって!」と叫びながら亡くなったともいわれている。その自由で挑戦的な生き様は、もはや伝説的だ。
彼の死後からおよそ10年後の1968年、彼の作品は再評価されることになる。フランスで五月革命が勃発し、カウンターカルチャーが流行したことも追い風となり「ヴィアンブーム」と呼ばれるほどの一大ムーブメントにまで発展する。
あらゆる権威あるものを嫌い、不寛容がはびこる世間に対し、強烈な皮肉と悪ふざけで反抗し続けたヴィアンの挑戦的な姿勢が、大戦後20年を経たフランス国内の若者たちに大きな共感を呼び起こしたといわれ、同小説も『お前らの墓につばを吐いてやる』とタイトルを変え、再版されることになった。