ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 「最大の難関は“キノコ雲”」クリストファー・ノーラン最新作『オッペンハイマー』CGなしで核爆発を再現した驚異の方法とは?

「最大の難関は“キノコ雲”」クリストファー・ノーラン最新作『オッペンハイマー』CGなしで核爆発を再現した驚異の方法とは?

text by 編集部

7月21日(金)に全米で公開される映画『オッペンハイマー』。「原爆の父」を題材にした作品で、監督はCGI技術を嫌うクリストファー・ノーラン。大方の予想通り、撮影にあたって「ほぼ本物の爆弾」を作り、ほぼCGI技術なしで撮影を完了させていたようだ。製作秘話を現地メディアを参考に紹介する。

最大の難関は“キノコ雲”の再現

映画『オッペンハイマー』
映画オッペンハイマーGetty Images

監督に脚本、撮影に編集。その全ての製作工程を自身で務めた、自主制作の白黒映画『フォロウィング』(1998)から、長編映画デビューを果たしたノーラン監督。これまで製作を行った映画作品の興行収入の累計は、なんと50億ドル(日本円で約5750億円)。

そんな圧倒的とも言える結果を叩き出した、映画史の中でも影響力が最も強い映画監督の1人であるノーラン監督。このような大規模な結果として、映画界や映画ファンへ計り知れない程、貢献していることは言うまでもないことだ。つまるところ、ノーランは、映画界で最も愛されている“スター監督”なのだ。

『ダークナイト』の3部作に、ご存知の『インセプション』。『インターステラー』、『メメント』に、『インソムニア』。彼が製作を務めた映画は大抵の場合、人々の心に残る名作となっていることは否めない。彼の作品を特徴的なものにするポイントは、危険と混乱、華麗さを共に、時間という水の中を泳ぐかのように構成された挑戦的とも言えるその物語だ。ノーランはこの特有のジャンルに関して、他の監督では乗り越えることのできない基準を確立しているのだ。

しかし今度の長編映画『オッペンハイマー』では、「原爆の父」と呼ばれた物理学者ロバート・オッペンハイマーに焦点を当てる。彼が原爆開発から、反「水爆」を訴えるに至るまでの奇妙な人生を描く伝記となっている。これはノーランが今まで独占してきたとも言える、時間の駆け引きが特徴的なジャンルの映画作品とは全く別物。

さらにノーランは、CGI技術を映画製作に極力使用しない稀有な存在だ。直感的なインパクトを生み出し、可能な限り本物の映画体験を視聴者に提供することを信条としている。よって、彼が「原爆の父」を題材にした次回作を発表したとき、ファン達は驚きの声を上げ、ノーラン監督が本当に核爆弾を爆発させるのではないか、と憶測を呼んだのだ。そしてファンのそのような憶測は、的外れなものにはならなかった。実のところノーランは、CGI技術を使用せずに、核爆弾の映像表現をやってのけたのだ。

そこで今回は、米Movie Webを参考に、一体ノーラン監督が、映画『オッペンハイマー』でCGI技術を使用せずに、どのように核爆弾の爆発を表現したのかを本作公開前に紹介していく。

英Total Filmのインタビューにて、ノーラン監督は、この試みは過去のどの作品よりも挑戦的なものであったと語っている。続けて彼は、以下のように話した。

「視覚効果のスーパーバイザーであるアンドリュー・ジャクソンには、初期の段階から製作に参加してもらった。私たちは、量子力学や、物理学の表現から核実験そのものの再現に至るまで、映画の様々な視覚的要素を捉えるための、実践的なアプローチを模索した」

「私と私のチームは、ニューメキシコのメサにて、マンハッタン計画により、原子爆弾の研究所が創建した都市ロスアラモスを再現し、異常気象に直面するという課題にも取り組みました。こうした現実的な挑戦は、映画の信憑性を高めるために極めて重要だった」

ノーランの言う通り、本作の撮影のかなりの部分はニューメキシコで行われたようだ。彼は一貫して、CGI技術は観客から“危険”の感覚をなくし、“安全”を感じさせる。それは、映画の質を下げる行為だ、と述べてきた。

核実験の爆発では、スコット・R・フィッシャー率いる特殊効果スタッフが、縮小模型を使用した、強化遠近法として知られる技法を採用。フィッシャーはこの模型を決して“ミニチュア”と呼ぶのではなく、「ビッグ・フィギュア」と誇らしげに呼んでいたようだ。小道具をカメラに近づければ近づけるほど大きく見え、視覚的インパクトを効果的に伝えることができるためだ。

爆発時の激しい炎は主にガソリンとプロパンの混合物。フィッシャーによれば、この組み合わせが選ばれたのは、火工品としてのエネルギー出力が高かったからだという。さらには、アルミニウム粉末とマグネシウムを加え、核爆発に見られる、まばゆい閃光を再現することを目指した。チームの意図は、実際の核爆発で経験した明るさに似た、印象に深く残る視覚的効果を生み出すことだったようだ。彼らの究極の目的は、スクリーンで観客を魅了し、本作をめぐる議論を喚起することだったのだ。

黒色火薬の爆発や、ガソリン、マグネシウムの炎、様々な油や、粒子間の相互作用の組み合わせを使用した、非常に実験的な撮影が行われた。製作に使用されたこれらの道具は、爆発力の維持や、ダイナミックで自然的な爆発のため、慎重に選ばれた。しかし、最大の難関となったのは、原爆の代名詞である「キノコ雲」を作り出すことだったようだ。

英Empir 誌との対談で、ノーラン監督は「乗り越えられない壁だった」と明かした。臨場感のある爆発を実現するため、撮影スタッフはTNT(トリニトロトルエン)を使用し、TNTが生み出す爆発全体を多角的な視点で撮影し、何層ものレイヤーを加えることを可能にするコンピューターを使用し合成を行った。ある意味、ノーランは撮影のため核爆弾ではないが、ファンの憶測通り、実際に本物の爆弾を爆発させた。

ノーランの反逆的な創造は『ダークナイト』のトラックが横転するシーンを生み出したり、『インセプション』の回転する廊下、『インターステラー』の砂嵐「ダストボウル」を作る程だ。CGI技術とは正反対の道を歩むという決意やその衝動は、原始的で力強い映画体験を生み出すという、貪欲な情熱によるものとしか思えない。

彼は以下のようにも述べた。

「ストーリーの主観性は私にとって全てです。私たちはオッペンハイマーの目を通して、これらの出来事を見たいのです。そしてそれが、私たちをオッペンハイマーの旅へと連れて行くように、キリアン・マーフィーに対して課した挑戦でもあり、撮影監督であるホイテ・ヴァン・ホイテマをはじめとする、製作チーム全員への挑戦だった」

また、 映画『オッペンハイマー』は、業界の大スターを集めたことでも知られている。主演キリアン・マーフィーに、マット・デイモン、エミリー・ブラント、ロバート・デ・ニーロ、ゲイリー・オールドマン、フローレンス・ピュー、ラミ・マレック、ベニー・サフディ、デイン・デハーン、ジャック・クエイド、ジェームズ・ダーシー、ケネス・ブラナー、ケイシー・アフレックといった演技派レジェンドを起用し、新たな基準を打ち立てたのだ。

映画『オッペンハイマー』は、7月21日(金)に全米で公開される。しかし日本公開日は未定となっている。ノーラン監督の新たな試みが、どのような作品を生み出したのか非常に気になるところだ。日本公開も間もなく行われることを期待したい。

【関連記事】
「時間逆行」の意味とは? 未来人の目的は? 史上屈指の難解映画『TENET テネット』をわかりやすく解説
映画『インセプション』謎めいたラストシーンを解説。最後のコマが示す意味とは?<あらすじ キャスト 考察 評価 レビュー>
映画「メメント」時系列を整理すれば超わかりやすい! 賛否両論の難解映画。ラストの意味は? <あらすじ 考察 解説 評価>

error: Content is protected !!