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映画『アンダーカレント』デザイナー・大島依提亜×写真家・木村和平トークイベントで真木よう子の水中シーン撮影の苦労話を語る

text by 編集部

主演に真木よう子、監督に今泉力哉を迎えた映画『アンダーカレント』。本作の公開を記念したトークイベントが、10月2日に本屋B&Bにて行われた。ゲストはポスタービジュアルを手がけた大島依提亜と、ポスター撮影を担当した木村和平。グラフィックデザイン、カメラマンというそれぞれのフィールドでどのように表現したのか熱く語った。

「真木よう子と『せーの』で潜る」
ポスタービジュアルの撮影秘話を語る

「アンダーカレント」
C豊田徹也講談社 C2023アンダーカレント製作委員会

「まるで1本の映画を観ているようだ」と漫画評論家の間や口コミで高く評価され、“漫画界のカンヌ映画祭”と呼ばれるフランス・アングレーム国際漫画祭ではオフィシャルセレクションに選出された豊田徹也の伝説的一作、長編漫画『アンダーカレント』。

主演に真木よう子、共演に井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこと実力派俳優が集結し、映画化された。

監督は、『愛がなんだ』『ちひろさん』などを手がけた、いま日本映画界で最も支持を集める映画監督の一人・今泉力哉がつとめる。

そんな本作の公開を記念して、下北沢にある本屋B&Bにて10月2日(月)、ポスタービジュアルを手がけたデザイナーの大島依提亜氏と、ポスター撮影を担当した写真家の木村和平氏による初の対談イベントを実施した。

「アンダーカレント」
写真家 木村和平C豊田徹也講談社 C2023アンダーカレント製作委員会

もともと原作漫画の大ファンだったという木村は完成した映画を鑑賞してみて「僕はかなり好きな映画でしたね。今泉映画の中でもいちばん好きだった。原作漫画は、自分にとっても重要な作品だったので、それをどうするのかなという感じで。それを探る感じで制作過程を見ていたんですけど、できあがった作品を観たら今泉さんしかできないものだなと思ったし、シンプルに好きな映画でした」と感じたという。

「アンダーカレント」
デザイナー大島依提亜C豊田徹也講談社 C2023アンダーカレント製作委員会

一方の大島は「僕が今泉さんの作品に参加したのが前作(『窓辺にて』)からだったんですけど、その前からファンで観ていてはいたんですけど、最近は作品ごとにちょっと重みが増していますよね。主題も単純に重くなっているんですけど、その中に今泉さんの独特の軽さみたいなものがあって、重いものを水の中に入れて、その浮力で軽くするというような絶妙さがあるんで。原作の重さがありながらも、すごく軽やかなところもあって。そこがすごく絶妙ですよね」とコメントした。

映画のスチールカメラマンとして参加する際は、「監督と撮影監督が話すのと同じくらいに、監督と自分がコミュニケーションをとることができた時はうまくいきますね」と語る木村。

今泉監督とは、『愛がなんだ』『街の上で』『窓辺にて』などを担当してきた。

そのことを踏まえた大島が「やはり『愛がなんだ』からはじまった今泉さんのスタイルが木村さんの写真になっているんですよ」と指摘すると、木村も「それはありがたいと同時に大丈夫かしら、という思いもありますね。でも最初からうまくいってたわけではなく、最初はもめたこともありましたが、お互いにシンパシーを持ってやっていることが分かってきて。今泉さんがどこを見せたいか。なんとなく肌感覚で分かってきた」と明かす。

そんな2人が今回タッグを組んだのは本作で3作品目だが、実際に会ったのは本作のビジュアル撮影をした時が初めてだったという。

「(ポスタービジュアルの)水中シーンのロケハンの時にお会いしたんですが、たいして会話をしなかった。僕が人見知りということもあるんですが」という木村に対して、「得てしてアートディレクターとカメラマンは同じ方向を見ているから、うーんとなりがちで、あまり会話をしないんですよね。でもしゃべらずとも共有できるものがあるから不思議ですよね」としみじみ語った。

本作のビジュアルは、原作コミックの表紙をオマージュした形にしたという。

そのことに「『マイ・ブロークン・マリコ』の時も、マンガ原作の映画をやったんですけど、それもコミックの表紙が顔になっていて。あの時は別のカメラマンさんでしたが、それと同じに撮るのが果たしていいことなのか。コミカルな作品ならパロディーでもいいけど、シリアスな作品だと意外と勇気がいるんですよ。

あの作品は打ち合わせの時に迷ったけど、とにかく迷ったならやってみようとやってみたんですが、実際に撮ってみたら、カメラマンさんのスキルもありますし、(主演の)永野芽郁さんの説得力がすごくて。同じ絵柄なのに、ちゃんと実写としての説得力があって。撮ってみないと分からないなという感じがしたんですよ。そして今回もやっぱり案の定そういう感じになったし」と語る。

すると木村も「確か漫画原作の実写化作品の写真をやるのがこの時がはじめてだったと思うんですが、今回は原作表紙へのリスペクトがありつつも、もちろん違うものになるというのは確信があったし、どうにかしないとただのパクりになってしまうというのがあったけど、でも結果的にうまくいった」と振り返った。

水中から浮かび上がる、かなえ(真木よう子)の幻想的な写真が印象的な本作。

この写真の撮影を振り返って「本当につらかった」と笑う木村は、「実はプールが苦手なんですよ。でも真木さんが水の中に入っているのに、自分が淵から撮っていてもいいものが撮れるはずがない。だから水の中に入れる服と、鼻栓など潜水グッズをいろいろと買って。真木さんと一緒に「せーの」で潜って。限界まできたらあがって、というのを何回か繰り返した。あれはなかなかハードでしたね」とその裏側を解説。

そんな流れから話の話題は、スチールカメラマンとしての木村の独特なスタイルに。

「やはり本編にあるシーンの写真がなくちゃというのはありますけど、本編にはないかもしれないけど、写真でしか見せられない一枚絵での写真を撮りたいと思っていて。あるシーンでカットがかかった時に、お芝居がどう続いているのかと想像して。それを事前に役者の方に説明して、理解してもらって撮ったりもしますね」という木村。

『愛がなんだ』の時のポスタービジュアルでは、テルコ(岸井ゆきの)をおんぶするマモちゃん(成田凌)という本編にないシーンを非常に印象的に使用したことで話題を集めた。

「あれはもともと脚本にあったシーンで。脚本を読んだ時にも気になっていたんですけど、結果的に編集の時にカットされたシーンだった。でもそれが(ポスタービジュアルに採用されたことが)きっかけで本編にない写真もありじゃないかと思って。それ以降、意識的に本編にない、前後の時間の写真を撮ってみようかなという考えでやり始めました」とそのきっかけを説明。

そのスタイルは映画の撮影現場で、映画カメラマンと同じ立ち位置で撮影できないというジレンマから始めたものだったという。

「どうしても狭い撮影現場だと、ベストポジションはムービーのカメラで。そのまわりだと録音さんの場所とかもあるんで、スチールカメラマンが入る場所がなかったりする。それはいい写真にならないんじゃないかと思っていて。でも今は撮影も4Kとか8Kとかになっているので、場面写真を使いたいなら、ムービーの映像切り抜きでいいんじゃないかと思っているんですが」と語る木村に対して、大島は「僕はその意見には真っ向から反対したい」とキッパリ。

「これは僕の経験からなんですが、本編を観て。この構図がいいなと思って本編映像から抜くと、ことごとく弛緩(しかん)しちゃうんです。例えばカメラがパン(縦や横に動かす)しても、パンした先の広さも加味された構図になるから。そこで止まった時には、そこですでにトリミングされている映像になってしまう。結局うまくコマ抜きができないなとなって。今はまさに、(現場でスチールカメラマンが撮る)スチール写真の重要さを痛感しているところです」とスチールカメラマンの重要性について語る大島の言葉は、木村にとっても目からうろこだったようで、「それを聞けてよかった」としみじみ。

その後もクリエーター同士ならではの、それぞれの創作の裏側、クリエーションのポリシーなどを深掘りしていく密度の濃いトークに観客も興味津々。

今泉監督のユニークな演出スタイルなど、今泉監督と密度の濃いコラボレーションをした2人だからこそ話せる裏話が次々と披露されるなど、およそ2時間にわたる充実のトークはあっという間に幕を下ろした。

【ストーリー】

家業の銭湯を継ぎ、夫の悟とともに順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪する。

途方に暮れていたかなえだったが、なんとか一時休業していた銭湯を再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が、銭湯組合の紹介を通じて「働きたい」とやって来る。その日から、住み込みで働くことになった堀とかなえの不思議な共同生活が始まる。

友人・菅野から紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに期間限定で悟を捜しはじめたかなえは、悟の知られざる事実を次々と知ることに。

それでも、堀と過ごす心地よい時間の中で、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。

だが、あることをきっかけに、悟、堀、そして、かなえ自身も閉ざしていた、心の奥底に沈めていた想いが、徐々に浮かび上がってくる。それぞれの心の底流(アンダーカレント)が交じりあったその先に訪れるものとはー。

【イベント概要】

■イベント名:映画「アンダーカレント」公開記念トークイベント 大島依提亜×木村和平「アンダーカレント」の世界観
■日時:10月2日(月)19:30~21:30
■会場:本屋B&B (世田谷区代田2−36−15BONUS TRACK2F)/オンライン配信
■登壇者(敬称略):大島依提亜、木村和平

映画『アンダーカレント』10月6日(金)全国公開

「アンダーカレント」
C豊田徹也講談社 C2023アンダーカレント製作委員会

■出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
■監督:今泉力哉『愛がなんだ』『ちひろさん』
■音楽:細野晴臣『万引き家族』『メゾン・ド・ヒミコ』
■脚本:澤井香織『愛がなんだ』『ちひろさん』、今泉力哉
■原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーン KC」刊)
■製作幹事:ジョーカーフィルムズ、朝日新聞社
■企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
■配給:KADOKAWA
■コピーライト:©︎豊田徹也/講談社2023「アンダーカレント」製作委員会

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