「理解されないことを恐れずに描く」映画 『LONESOME VACATION』下社敦郎監督、単独ロングインタビュー
映画 『LONESOME VACATION』の下社敦郎監督に独占ロングインタビューを敢行。プロデューサーは俳優の森岡龍が務め、探偵×バケーション×ロックンロールという異色の組み合わせに取り組んだ野心作。撮影に至るまでの経緯や秘話に加え、音楽製作も行う監督自身のことなど、プライベートなことまでじっくりとお話を伺った。(取材・文:福田桃奈)
【プロフィール】
1987年生まれ、三重県出身。映画美学校フィクション・コース修了、今に至る。映画音楽作として、いまおかしんじ監督『ろんぐ・ぐっどばい〜探偵古井栗之助〜』(17)『れいこいるか』(20)、山嵜晋平監督『なん・なんだ』(22)など、監督作に『WALK IN THE ROOM』(16)『ヴォワイヤンの庭』(18)、『東京の恋人』(20)、『kidofuji』(22)がある。
「トゥーマッチでも、映画の世界観で成り立つように」
リーゼントの探偵、誕生秘話
―――映画好きの心をくすぐる作品で、大変楽しく拝見させていただきました。本作は監督の前作『東京の恋人』(2020)で主演を務めていた森岡龍さんがプロデューサーを務めていらっしゃいますね。
「『東京の恋人』はコロナ禍真っ只中になんとか公開出来たんですけど、その後、ステイホームでみんなと会う機会もなくなってしまって。そんな中、去年くらいからコロナの助成金で森岡くんが短編を監督していて、僕も脚本書いたり、短編を撮影したりと、お互い連絡は取ってなかったんですけど気にかけている部分はありました。
企画の発端は去年の10月。森岡くんから、『ARTS for the future!』という助成金を使って、彼が代表を務めているマイターン・エンターテイメントで『探偵ものの映画を作らないか?』と誘われたのがきっかけです。『マイターン・エンターテイメント所属の藤江琢磨を主演にしてもらいたい』ということで、実際に会って当て書きをしました」
―――本作は探偵ものであると同時に、バカンスとロックンロールという要素が加わります。この組み合わせはどのようにして着想されましたか?
「王道の探偵映画やドラマから少し関節を外したいと思ったのと、音楽が好きなのでそういう要素は取り入れやすいというのがありました。
バカンス要素は、シナハン(脚本を書く際に行われるロケーション・ハンティング)の時にスタッフ3人くらいで三浦半島に行った時に着想しました」
―――今回、高円寺と三浦半島の城ヶ島で撮影されていますが、高円寺は前作『東京の恋人』にも登場しております。ロケ地を選んだ決め手を教えてください。
「高円寺は単純に私が住んでいる場所だからです。城ヶ島に関しては予算も無かったので、日帰りで行きやすく、且つローカルな場所をグーグルマップで探していたところ、ここかなと」
―――ロケ地を選ぶ際に、プロデューサーの森岡さんともやり取りをなさったのでしょうか?
「城ヶ島は初稿の時から書いていたんですけど、初稿を見せたら森岡くんたちにビックリされました。その理由が、多摩美時代に手伝った作品がちょうど城ヶ島で撮影をしていたらしく、思い入れのある地で、彼らは縁を感じたみたいです。僕は知らずに書いていたので、まるで導かれているようでした」
―――冒頭で主人公がエルヴィス・プレスリーについて語るシーンなど、何気ないセリフが物語をユニークにしていると思いました。
「最初は主人公をリーゼントにする予定はなかったんですけど、初稿の段階でエルヴィス・プレスリーのについて語るセリフを入れていて、改稿の時にキャラを際立たせるためにも見た目もそういう方向性にしようということになりました」
―――リーゼントの探偵という設定がキャッチ―だったので、最初のコンセプトに無かったとは、少し驚きました。
「我ながら『どうなのかな?』とは思ったんですけど、永瀬正敏さん主演の『私立探偵 濱マイク』シリーズ(林海象監督作)やポール・トーマス・アンダーソン監督の『インヒアレント・ヴァイス』などを観ると不良っぽさがあり、ちょっとトゥーマッチで日常に居なさそうでもいいから、映画の世界で成立するようにしたいという考えでキャラクターを作っていきました」
―――なるほど。ジム・ジャームッシュの雰囲気も感じました。
「元々好きですからね。ジャームッシュの作品とかを観て、映画撮りたいなと思ったんです」