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史上最も危険な映画は…? 実在の事件に影響を与えた名作5選。観客の倫理観に揺さぶりをかける鑑賞注意の作品をセレクト

text by 寺島武志

映画は心の薬だ。スリリングなサスペンスやミステリー、人生を描くヒューマンドラマは、人々にとって娯楽であり刺激であり、日々を彩るのに役立つ。しかし同時に、毒になる危険性もはらんでいる…。中には映画を悪用し、事件を起こしてしまう者がいるのが現実だ。そこで今回は、皮肉にも犯罪者を生み出した映画を5本紹介する。(文・寺島武志)

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ストーカーに殺人未遂…。ヒロインの虜になった男が起こした許されない蛮行

『タクシードライバー』(1976)

映画『タクシードライバー』主演のロバート・デ・ニーロ
映画タクシードライバー主演のロバートデニーロGetty Images

上映時間:114分
原題:Taxi Driver
製作国:アメリカ
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ポール・シュレイダー
キャスト:ロバート・デ・ニーロ、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス、ハーベイ・カイテル、レナード・ハリス、シビル・シェパード、ピーター・ボイル

【作品内容】

ベトナム帰還兵であるトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)は、戦争のトラウマに起因する不眠症に悩まされていた。ニューヨークのタクシー会社に就職したトラビスは、同僚が行きたがらないスラム街や高級住宅街へも積極的に車を走らせる。

【注目ポイント】

闇を抱える男を好演したデ・ニーロの格好良さと、当時、13歳だったジョディ・フォスターが売春婦役を演じたことが大いに話題となり、カンヌ国際映画祭で最高賞を獲得した本作。

しかし、この名作に触発され、ヒロイン・クラリスを演じたジョディ・フォスターへのストーカー行為に及び、ついにはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件を起こす男が現れた。

その男の名はジョン・ヒンクリー。裕福な家庭に育ちながらも、エリートの道を進む兄にコンプレックスを抱きながら、大学時代には白人至上主義と極右勢力に傾倒していく。

「大統領を暗殺すれば、ジョディが僕に振り向いてくれる」といった狂った妄想に端を発した犯行だった。

学生時代から抗うつ薬を使用するなど、精神的に不安定だったヒンクリー。殺人未遂など13の罪に問われたものの、出された判決はまさかの「無罪」。

その根拠は「心神喪失により責任能力なし」。この判決は米国社会に大きな議論を呼び、裁判所にも抗議が殺到した。

こうした反応を受け、米下院議会や多くの州において精神異常者の犯罪に対する法律を改正することにつながる。特にアイダホ州、カンザス州、モンタナ州、ユタ州の4つの州では、精神疾患を持つ者の犯罪に対する免罪措置を全て廃止させた。

実際の作品は、ベトナム戦争帰りで、心身共にボロボロのまま、タクシー運転手の職に就き、煌びやかなニューヨークの街を流しながら、麻薬やセックスに溺れる若者を横目に、鬱々とした日々を送るデ・ニーロ演じるトラビスが、密売人から拳銃を入手し、自らも鍛え直して海兵隊員時代の肉体を取り戻す。

ある日、遭遇した強盗事件で、犯人グループを射殺し、ヒモに騙され売春をしている少女・アイリスに、荒んだ生活を止めるように説得する。

そんなトラビスにはある計画があった。次期大統領候補であるパランタインの射殺だ。トラビスにはパランタインの選挙事務所に勤める女性からフラれた過去があった。

彼はそれを「浄化作戦」と呼び、実行に移すが、警備の厳重さから逃げ出してしまう。その夜、アイリスのヒモの男や、その見張り役、用心棒、さらに売春の元締めを立て続けに射殺する。

彼は大統領殺害を計画する大悪人から、奇しくも、裏社会の人間から少女を救うヒーローに祭り上げられてしまう…というものだ。

このストーリーから、鑑賞者を犯罪に向かわせるとすれば、まずは悪人から狙いを定めるだろう。ところがヒンクリーは、いきなり大統領暗殺という目的で動き出し、しかもその動機は出演者への一目惚れという手前勝手なものだ。

1人の異常犯罪者によって、ケチが付いてしまった名作だが、その価値が下がることはない。実際、ロバート・デ・ニーロの代表作となり、また、ジョディ・フォスターがその後、一流俳優の階段を駆け上がっていったことが、それを証明している。

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